鬼塔


 
 
 
エイリア学園崩壊後。最初の頃こそ慌ただしくもあったが最近はだいぶん落ち着いて本来の生活を取り戻しつつあった。
学校へ行き、授業を受け、お弁当を食べて、部活をし、家で予習復習宿題をして、ふかふかのベッドで眠りにつく。

ああ、これが普通なんだな…

どこか物足りなさを感じつつも無理やり気付かないふりをする。
あいつは忙しいやつだから、もう会うことは無いかもしれないから…








って思っていたのに、先日義父さんから爆弾が投下された。




「有人お見合いしなさい」

「…義父さん、僕はまだ中学生ですよ。お見合いはまだ早いです」

「まぁ聞きなさい。相手は財前総理の娘さんでな」

「………え?」


頭がフリーズした。


純粋に嬉しいのかもしれない。
もう会えないかもと思っていた彼女に無条件で会う口実が出来たのだから。
だが、こんな形で塔子と一緒になって良いのだろうか とか、塔子の気持ちを無視してるのではないか とか、いろいろ引っかかる。


駄目だ、頭が回らない。


朝練は遅刻したし、授業にも集中出来ないし、食欲は無いし、大好きなサッカーでさえもさっきからミスばかりだ。


…みんなの視線が痛い。





「鬼道、なにかあったのか?」


(((ナイス円堂!)))


「いや…別に何も…」

「何も無いはずないだろ」

「豪炎寺…」

「俺らで良ければ話し聞くぜ!」

「…円堂」






〜in部室〜


「…実は、お見合いをする事になって…」

「「お見合い!!!?」」

「あぁ…」



そうだよな、普通驚くよな中学生でお見合いなんて。
分かっていたさコノヤロウ。



「…だから悩んでたのか」

「嫌なのか見合い?」

「いや…あの……嫌では無いから困ってるんだ」

「は?どういうこと?」




ああ、二人の目が疑問を訴えてくる。



「その………相手が塔子なんだ」

「え!塔子って塔子!!?」

「あぁ」

「俺らの知ってる財前塔子か?」

「あぁ」





俺の中の何かが外れた。





「正直俺は塔子の事を意識していなかったかと問われれば意識していたと答えざるを得ない。塔子の思い切りの良いプレイも、サッパリとした性格も、時折見せる育ちの良さを思わせる婦女子らしさも好きだ。だが塔子も俺と同じ気持ちである可能性は限り無く低い。塔子は円堂や綱海みたいなのが好きみたいだからな。つまりこの見合いは俺のエゴを押し付けているだけ、塔子には負担にしかなっていないんだ。でも父さんが俺の為にと考えた結果がこれで、この話を俺から断ることは父さんに対して凄く申し訳ない。俺はどうすれば良いんだ…」



「鬼道…(ごめん俺途中から聞いてなかった)」

「(円堂の馬鹿!)…お前の気持ちは良く分かった。だがお前は自分がどうすべきなのかもう分かっているんじゃないか?」

「…見合いの前に直接塔子の気持ちを確かめる」

「(こくん)」

「よし鬼道!当たって砕けて来い!!(にかっ)」

「砕けちゃだめだろ」






「よ、良し塔子に告白する。……そのうち」




はぁーっ と二人の大きく長いため息が聞こえた。




「きーどーう」

「男なら決断したらすぐ実行しろ」

「こ、心の準備というものがだな…」


塔子のメールアドレスも携帯番号も俺の携帯の中に入ってるから連絡しようと思えば直ぐにできる。
メールで告白なんて薄っぺらなことはしたくない。となれば電話を…だが今かけて大丈夫だろうか?一度メールでアポを取って…それなら後日会う約束をして直接言った方が…
あー、もう俺はどうしたら良いんだ!…ってか何だ?外が騒がしいな。


っと思っていたら部室のドアが勢い良く開いた。





『鬼道!!!』




「と、塔子!?」


なんで塔子がここに!?
これは俺の都合の良い幻か?



「あのさ、私昨日聞いたんだお見合いの事!」

「…ああ」


会話出来る。
どうやら幻では無いようだ。



「私やだ!お見合いなんて嫌だから」

「!………そうか」






俺の中の何かが砕ける音がした。






「ボソッ(鬼道当たる前に砕けたな)」

「ボソ(円堂黙ってろ)」



「…塔子すまない。父さんには俺から言っておくから…気にするな……」



塔子の顔をまともに見ることが出来ない。
ヤバい、泣きそうだ…




「鬼道…あのさ、そうじゃなくて……」





追い打ちをかけるつもりか…!
もうやめてくれ、俺のライフは0だぞ!






「私鬼道のこと好きだ!」






塔子の口から飛び出したのは回復魔法だった。






「鬼道のこと好きだから、お見合いとかじゃなくてちゃんと言いたかったんだ」



声が震えている。
それでも背をぴんと伸ばし、俺の目をまっすぐ見ながら自分の意思を伝える事が出来る塔子はなんて強い人間なのだろう。

応えなければ。
俺も彼女に自分の気持ちを伝えなければ…!





「と、とうきょ!俺も塔子のことが好きだ。俺と付き合ってほしい」





…噛んだ 最悪だ。
軽く自己嫌悪に陥ったが、目の前の塔子の顔を見たら全て吹き飛んでしまった。

普段の晴れやかな笑顔からは想像も出来ないほど頬を紅く染め、目を潤ませる塔子は非常にいじらしい。
どうやら俺はギャップに弱いようだ…





「鬼道/// 嬉しい!」





泣き笑いながらそう言う塔子があまりに可愛くて、我慢できずに抱きしめた





僕らの始まり









(あいつら俺らが居るのをすっかり忘れてるな)
(良し、問題は解決したな!サッカーやろうぜ!!)







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