ムカつく女がいる。そいつは真田や猿の友人だ。話したことはない。真田たちと話したときに、近くで見るだけだ。だが何故か、見ていて無性に苛々する。自分でも理由はわからないが、こんな風に思った奴は初めてだ。政宗くん、と呼ばれてアイツらに向けていた視線を隣の女たちに移した。


「どうしたの?」
「何でもねえよ」
「ねえ、今日放課後遊ぼうよー」
「いいぜ」
「やったあ」


上目使いでにこにこと笑う女たちに笑みを向ければ、高い声が上がる。あんな女に意味もなく腹を立てている時間が勿体ない。女なんか周りにいくらでもいるんだ。そいつらと楽しんでるほうが、有効な時間の使い方に決まってる。耳元ではやたらと甘い猫なで声が響いた。





「旦那ー、名前ちゃーん、帰ろうぜ」
「うむ!」
「ごめん、私日直だから残るね」
「おお、そうでござるか。わかり申した」
「また明日ね」
「また明日」
「ばいばーい」


聞き慣れた声が通りかかった教室の中から聞こえた。そのあとすぐ、見知った顔の二人が室内から出てくる。


「おお、政宗殿」
「あら、今日は女の子たちとのデートはないの?」
「ちゃんとあるぜ」
「な、破廉恥な」
「まあまあ、個人の自由だから。じゃあ俺様たちは帰るね」
「失礼致す」
「ああ、またな」


廊下を歩いていく後ろ姿を見送った後、アイツらの教室に目を向ける。夕陽に染まる室内、窓側の一番後ろの席にあの女がいた。近づくと上履きが床を鳴らす音で気づいたのか、こちらに顔を向けた。


「よお」
「……伊達くん?」
「知ってたんだな、俺のこと」
「うん、伊達くん有名だから」


それは俺が女と遊んでるからっつう嫌味か。なんてことない言葉だが、こいつに言われると何故か嫌なほうに解釈してしまう。まあどうでもいいが。


「アンタ、真田と付き合ってんのか?」
「え、付き合ってないよ」
「あの真田が女といるなんざ珍しいからな。色仕掛けでもして誑し込んだんじゃねえかと思ってよ」
「……え?」
「図星か? あと、アンタは知らねえかもしれねえが、猿の野郎も陰では遊んでんだぜ。もしやアンタ、もうアイツとヤったか?」


アイツらといるのも男目当てか。そう言うと、女の目が見開かれていく。顔に浮かぶ間抜けな表情を鼻で笑ってやった。いい気分だ。


「……何なのお前」


先ほどよりも少し低い声。表情を変えてじろりと俺を睨み上げる女に、思わず目が円くなった。


「やっぱりアンタ最低なんだね」
「猫でも被ってたのか? 最低なのはどっちだ」
「頭にきたんだよ。見てていけ好かないと思ったけど、ここまでだったか」
「奇遇だな。俺もアンタを見るだけで苛々してたぜ」
「なんでお前なんかに引っかかる子がいるんだ」
「アンタに関係ないだろ」
「なら私に話かけんな。あと幸村と佐助とは仲良い友達だから。厭らしいこと考えて女子といるお前と一緒にすんな」
「……アンタほどうぜえ女初めてだ」
「私も、アンタほど魅力を感じない男は初めてだよ」


鼻で笑ったあと荒々しく立ち上がったその女。五月蝿い足音を立てて俺の横を通り過ぎる。今何つった。俺に魅力がねえだと?


「死ねブス!」
「黙れクソ野郎!」


正に教室を出ようとしていたそいつに思わず叫ぶ。すぐさま振り返り罵声を浴びせてきた女に、青筋が立ちそうだった。こちらを睨んだあと、涼しげな顔をして去っていったそいつ。ふざけやがって!


「許さねえあの女!」


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