「伊達の旦那、名前ちゃんが好きだって認めてから変わったよね」
「うむ、そうだな」


休み時間、幸村の隣の席に座る名前を見ながら佐助が小さく呟く。本人は気づいていないようで、こそこそと話す二人に不思議そうな顔を向けた。何でもないよ、という意味を込めて佐助が上げた手を左右に振る。名前の幼なじみが現れたあの日、喫茶店に戻った政宗は、幸村と佐助に自分は名前が好きらしいというどこか他人事のような宣言をした。それ以降、政宗は彼なりの頑張りを見せるようになる。以前に比べれば名前に対する暴言は少なくなった。どうしても喧嘩になってしまうこともあるようだが、全てその場だけの軽いものだ。彼女に対し極力優しくしようとしていることも、佐助たちにはわかっていた。不器用でなかなか名前本人には伝わっていないが、二人の関係は当初よりもずっと良くなっている。噂をすればというやつか、不意に政宗が教室に現れた。まっすぐに名前のもとに歩を進めた彼は、じろりと彼女を見下ろす。


「え、なに?」
「手ェ出せ」
「え?」
「いいから手ェ出せ!」
「は……?」


眉を寄せる名前だったが言われた通りに手を広げた。そこに置かれたのは菓子類が入っていそうな四角い缶箱。片手で持つには大きく支えきれないそれに、名前は慌ててもう一方の手を添える。そして気を取られている名前の頭上に、不意に何かが降ってきた。それらは名前の頭をバウンドしたあと彼女の机上に散らばる。名前だけでなく、幸村や佐助も驚きの声を上げた。


「いった! 何すんだこの野郎!」
「え、何してんの!?」
「飴でござる!」


頭をさする名前。転がるそれらは、幸村の言葉通り飴玉だった。透明の袋に包まれた色とりどりの球体は、茶色一色だった机を突如賑やかに見せる。


「え、なに……?」
「やる。家に余ってただけだけどな」
「私に?」
「ああ」
「なんで……? は! もしや賞味期限切れの」
「ちげえよバカ! 日付見やがれ!」
「あ、ほんとだ。じゃあすごい辛いとか不味いとか……」
「疑り深ェんだよテメェは」


苛々し出した政宗を気に留めず、名前は密閉されていた缶を開いた。中には数種類のクッキーが。チョコのかかったもの、ドライフルーツの混ざったもの。見た目からして美味そうなそれらを見て名前は、おお、と声を漏らす。少しして、彼女はクッキーに向けていた視線を政宗に移した。


「これ、本当にもらっていいの?」
「そう言ってんだろ」
「何も企んでない?」
「ねえよ! ほんとにテメェは、」
「わあ、ありがとう」


不意に嬉しそうに頬を緩めた名前を見て、政宗は口を閉じ赤面する。羨ましそうに菓子を見つめる幸村に気づいた名前が、彼にクッキーと飴を分け与えていた。美味しいと笑う二人を見ても政宗は動きを停止させたまま。口角を釣り上げる佐助に小突かれたことにより彼は漸くハッとしたようだった。


「……なんだよ」
「へー、クッキー家に余ってたんだ。じゃあ昨日は何買いに言ってたの?」
「………」
「お前のために買ってきたんだぜ……、って言えばいいのに」
「言わねえよ!」
「名前ちゃんがクッキー好きって教えてあげた俺様に感謝してくれていいからね」
「うぜえ」


政宗が真剣に菓子を選んでいる姿を想像するだけで吹き出しそうだ。佐助は内心で笑っていた。だってあまりに似合わない。アクセサリーなどではなく、名前が確実に好きな菓子類を選ぶ妙に慎重なところがまた面白い。一人の女子のためとは、この男も変わったものだ。


「伊達くんと佐助も食べる?」
「ありがとー」
「……俺はいい」
「お前が食べてるの見るだけで満足だよって?」
「Shut up!」


囁くような佐助の声に対し無駄に大きく政宗が返す。またもや不思議そうな表情を見せた名前だったが、意識はまた手元の菓子に戻っていったようだった。どれを食べようか選んでいる姿は、まるで玩具を与えられた子供のように楽しそうだ。


「俺、マジでコイツのこと好きなのか……」


名前を見ながら自分で納得したように呟く。その言葉は無意識に零れたようだ。政宗は薄赤い頬のまま複雑そうな顔をする。彼の死角で佐助はにやにやとした笑みを浮かべていた。

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