「自分の教室帰れ!」
「テメェに関係ねえだろうが!」


教室の扉付近で言い争う男女二人。その光景を遠巻きに見ながら、佐助はため息を吐いた。幸村も同じように視線を向け、僅かに眉を寄せている。名前を好きになったらしい政宗だったが、関係が好転した訳ではなかった。政宗が態度を変えないのだから当然と言えば当然だ。幸村や佐助から見れば政宗が名前に気があるのは明らかだったが、本人が自覚しているかは微妙なところである。


「伊達の旦那は何やってんだか……」
「他の女子には優しく致すのに、何故名前殿にはああなのだろうか……」
「自分から好きになるのなんか初めてだから、よくわかんないのかもねえ」
「政宗殿が名前殿にずっとあのような態度だったのは、お慕いしていたからなのだな」
「好きな子苛めるとか小学生だよほんと」


再び佐助の口から零れるため息。未だ口論は続けられている。政宗が名前を第一印象から気に食わないと言っていたのは、おそらくそのときから既に気になっていたからなのだろう。そしてそれが何故か、名前に突っかかるという裏目もいいところな態度で出てしまったらしい。最初は驚かれていた二人の喧嘩も、今やちょっとした学年の名物になっていた。以前と変わったのは、殺伐とした感じがなくなったところと多少は普通の会話もするようになったところだろう。大抵はそこからまた喧嘩になっているけれど。そしてたまに名前が笑顔を見せる度、政宗は似合わない赤面を周りに披露していた。それを見る佐助はいつも引き気味である。


「おかえり、名前ちゃん」
「ただいま。アイツ毎日何しにここ来るんだ……」
「俺は真田たちに用があって来てんだよ」
「……まだいたの」
「なんだテメェ、その顔は」


睨み合う二人を、まあまあと佐助が宥める。弁当を食べ終わったらしい幸村が、片付けながら二人に声をかけた。


「今日の放課後、佐助と慶次殿とバイキングに行くのでござるが、お二人もどうでござるか?」
「種類も多くて、美味しいらしいよ」
「へえ、いいな。行くぜ」
「ごめん、私は用事あるから行けないや」
「なになに、デート?」
「うーん、まあそんなとこかな」


笑顔でそう言った名前。佐助が、え、と漏らした声は、政宗が椅子に当たった音にかき消された。


「……つまんねえjokeはやめな」
「名前ちゃん、ほんと?」
「え、なにその感じ……」
「嘘吐くんじゃねえ! アンタなんかに男がいる訳ねえだろ!」
「どういう意味!? 私にだって彼氏の一人や二人いるわ!」
「いや、二人はダメでしょ」
「You are liar!」
「違えよ! とにかく今日はデートだから! ごめんね幸村!」
「い、いえ……」


本当だからな! と政宗に言い捨てて名前は自分の席に戻っていく。


「佐助、知っておったのか?」
「いや、俺様冗談で言っただけ……。もしかして本当に」
「……嘘に決まってる」
「え?」
「絶対認めねえ! 俺は見たことしか信じねえぞ!」


政宗は舌打ちを残して教室を後にした。おお、と何故か感嘆の声を上げている幸村と、顔を引きつらせる佐助がその背中を見送る。自分に声をかける女子のことも、政宗は全く気に留めていなかった。


「面倒くさいことになる予感がする……」


そう零した佐助は、本日何度目かわからないため息を吐き出した。


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