真田くんは女の子が苦手らしい。それは一年のときから噂で聞いていたが、私にはあまりそんな風には見えないのだ。


「名前殿」
「ん?」
「放課後職員室に来るようにと、雑賀先生が申しておりましたぞ」
「ええ、なんだろ……」
「おそらく修学旅行の係のことではないかと」
「ああ、そうかな。ありがと」
「いえ」


初めて真田くんと話したのは確か最初の方の移動教室のときだ。休み時間のあとに戻るのが遅くなって、教室には私と同じ状況だった真田くんしかいなくて。おまけに二人とも移動の場所がわからずそれまで話したことのない彼と一緒に校内を歩き回ったのだ。そのときは予想に反し普通に話してくれた。それからだ、真田くんによく話しかけられるようになったのは。


最初は趣味などいろいろ聞かれ、アドレスを教えてほしいと言われたときはさすがに驚いた。彼はメールが苦手らしいのでやり取りをしたのは数回しかないが。そしてなんやかんやでいつの間にか世間話をするくらいの仲になっていたのだ。友達には付き合ってるの?とか言われるようになり女子から敵視されるかもと一時はひやりとしたが、考えてみれば真田くんが私なんかをそういう対象で見てるわけないのだからと笑って流せた。今は女の子たちからも特に何も言われない。そして何故か委員会が一緒になったり席がいつも近かったりと彼とは何かと縁がある。まあそんな感じで仲良くさせてもらっているうち、真田くんが女の子苦手というのは嘘だよなあと思うようになったのである。そういえばこの前たまたま駅まで一緒になったとき彼に、荷物お持ち致しますぞ、と言われた。さすがに断ったが、ああいうところを見るとかなり紳士的な気がする。実際どうなんだろ。最近よくこんなことを考えている私が自分でも少し可笑しい。ちょっと笑いたくなったがさすがに不審なのでやめておいた。


時間は流れ放課後になった。雑賀先生のところに行かなければ。そう思いながらトイレから鞄を取りに教室に向かう。入ろうとした少し前で教室から男子数人の声が聞こえてきた。伊達くんとか猿飛くんたちがいる。なんとなく入りづらいなと思っているところで楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「旦那、今日渡すの?」
「うむ」
「告白もするんだろ?」
「今日こそは、必ず」
「頑張れよ!」


今の声は真田くんだ。わあ、好きな人いるんだ。知らなかった。渡すのってもしかして、この前一緒に帰ったときに言っていたやつだろうか。友達へのプレゼントって好きな人へのプレゼントだったのか。なるほど。


「で、なんで私は走ってきちゃったんだろう……」


廊下を歩きながらため息が漏れた。話を聞いたときは妙に冷静だったのに、頬を赤く染めて笑う真田くんを見た瞬間何故か逃げ出したくなってしまったのだ。そしてここまで走ってきてしまった。鞄も取れず、教室に言った意味がない。面倒くさいが荷物はあとで取りにいこう。


雑賀先生の話はやはり修学旅行のことだった。そういえば修学旅行、真田くんと同じ班だ。……なんか気まずい。いや、友達だから気まずくなる必要ないんだけど。とぼとぼと歩いているうちに教室に到着した。さすがに誰もいないだろうと思っていた予想は外れてしまう。


「名前殿」
「さ、真田くん」


いたんだ、と小さな声が漏れた。どこかそわそわしている彼。どうしたんだろう。……もしかして、告白成功した報告だろうか。それならなんか聞きたくない。何でだ。


「お話があるのだが」


うわ、まじか……! あんまり聞きたくないけどそんなことは言えるはずもなく。引きつりそうな顔を急いで隠す。


「なに?」
「これを受け取って頂きたく」
「え、私に?」
「うむ」
「わ、私誕生日じゃないよ?」


差し出されたのは可愛らしい紙袋。誰かと間違っているのだろうか。急に黙ってしまった真田くんを思わず見つめる。私と目を合わせた真田くんの真剣な目に一瞬思考が止まった。


「好きだ」
「……へ?」


思わず間抜けすぎる声が漏れた。近づいてきた真田くんに反射的に後退る。


「さ、真田くん、さっき告白するって……え?」
「聞いていたのでござるか」
「ご、ごめん」
「ならば話は早いでござろう?」
「え、なに、罰ゲーム?」
「違いまするよ」


真田くんが困ったように苦笑する。突然大きな手に右手を包まれ思わず肩が跳ねた。彼の高い体温につられるように自身の熱も上がった気がする。いつの間にか握らされていたのは先程の紙袋。


「貴殿のために買ったのだ。受け取ってくだされ」
「あ、りがと……」
「……初めて話したときから惹かれておりました」
「ひ、引かれて?」
「それから其方には他の女子とは違う態度で接してきたが、全く気づいてはおらぬ様子」
「え、え」
「部活の試合を見にきてほしいなどと何もなければ言いますまい」
「……え、と」
「修学旅行の班と委員会が同じなのも、席が近いのも、ただの偶然などと思っておりませぬよな?」


ニヤリと笑う真田くんに一瞬息が止まった。真田くんが女の子苦手なんて、やっぱり嘘だ。







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