※奇跡 番外編



リビングのソファーでうとうとと船を漕ぐ焦げ茶頭を見てため息が漏れた。またこんなところで寝ようとしてやがる。男ばかりのこの家でも危機感がうすいコイツは、寝るなら自分の部屋で寝ろという俺たちの言葉を聞く気はないのだろうか。


「おい、名前。ここで寝んなよ」
「あれ、元親」
「おう」
「おかえり」
「俺はどこも行ってねえよ。他の奴らは出かけてるけどな」
「あれ、そっか」


小さく欠伸を零した名前の隣に腰を降ろす。まだ少し眠そうながらも自分の部屋に行きはしないらしい。


「みんなどこ行ってるの?」
「買い物とか散歩とか。たぶんもうすぐ帰ってくるぜ」
「元親は行かなかったんだね」
「アンタが帰ってきたとき一人だと寂しいんじゃねえかと思ってな」
「……それで残ってくれたの?」
「俺は用事もなかったからよ」
「ありがと」


柄にもなく顔に熱が集まる。好きだと自覚してからは余計に可愛く見えてしまってだめだ。慶次に知られれば、冷やかされるに違いない。言ってねえし気づかれてもいないと思う……たぶん。一人思考を巡らしているとと不意にテーブルの上に置いてあった名前の携帯が震えた。色付きの明かりが光るそれが誰かの名前を表示する。携帯に手を伸ばす名前より先にそれを掴み上げれば、隣から小さく声が上がった。


「どうした?」
「誰だ? これ」
「いや、見てないからわかんない」
「野郎か?」
「あ、うん。同じ高校の人だよ」
「よく連絡すんのか?」
「うーん、最近はまあまあ」
「は?」
「え、な、なに?」


こないだ見た雑誌に書いてあった特集とやらを思いだす。よくメールくるのは下心があるかららしい。


「それ惚れられてんじゃねえの?」
「いやあ、それは違うと思うけど」
「なんでわかんだよ」
「まあ、仮にそうだとしても、何も言われてないし」
「付き合うのか?」
「いや、だから何か言われたわけじゃないから……」
「言われたら、付き合うのか?」
「ううん」
「なんでだ?」
「元親今日は質問多いね」
「気になるんだよ」
「今年受験だし、今はあんまそういう気ないから」


名前の様子から、本当にないんだろうとわかる。安堵からか深いため息が出た。


「その気ねえんなら連絡取らなくてもいいんじゃねえか。相手も期待しなくてすむだろ」
「でも何も言われてないのに避けるのもな。自意識過剰みたいでなんか」
「まあ、それもそうだな」
「難しいね」
「ああ」


唸りながら名前は携帯を見つめる。その様子を見ていたが、少ししたら考えることをやめたようだった。またこくりこくりと首を揺らし始める。先ほどの眠気は覚めなかったらしい。よく寝るな。眠いなら部屋で寝な、と言う前に左腕にかかった重みに一瞬身体が強張った。頬にかかる髪を右手でのける。名前の手にあった開きっぱなしだった携帯を閉じてそっとテーブルに置く。そのあと安らかな寝息に釣られるように眠気がやってきた。瞼が重い。睡魔に抗えず肩に乗る名前の頭に頬を寄せると、本格的に眠くなった。触れていた右手を握っても、とやかく言う者は今誰もいない。妙に穏やかな気持ちのまま、柔らかい髪の感触を感じながらゆっくりと目を閉じた。







リクエスト「奇跡 番外編、元親と甘酸っぱくほのぼのな話」
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