◎料理

『今日は俺たちがメシ作るよ』
「……え?」
「こっち帰って来たときもいっつも沙季が作ってくれてるだろ?」
「だからたまには俺たちで作ろうって」
「兄ちゃん料理できないじゃん……」
「大丈夫、沙季のために練習したから」
「前回より成長してるはずだ。な!」
「おう!」
「え、ええ〜……」
『待ってて沙季!』

「あれ、全然切れねー」
「ハルそんな切り方したら手切れるよ!」
「塩どんくらい入れんだ? こんくらいでいっか」
「ああ、入れすぎ!」
「火の強さこれでいいよな」
「うん」
「それじゃ強いよ!」

数十分後。

「なんでこうなんだろ……」
「煮物のはずなのにぐちゃぐちゃで何かわかんねえな……」
「これはグロい」
「できた?」
「ご、ごめん沙季、こんなはずじゃなかったんだけど」
「失敗した……」
「あ、ほんとだ」
「これは俺たちで食うわ」
「わたし食べるよ?」
「でも絶対不味いよ」
「でもせっかく作ってねくれたんだし、食べていい?」
『い、いいけど……』
「いただきまーす」
『……どう?』
「う、か、ちょっと辛い……」
「うわ……」
「ぐ、かたっ」
『うわ、ごめん……!』

数分後。

「ごちそうさま」
「全部食べた……」
「無理しなくてよかったんだぞ? 今更だけど」
「不味かったよね?」
「うーん、まあ美味しくはなかったかな……」
『だよな……』
「でも、嬉しかった。ありがと」
『沙季……!』



◎飲み会

「兄ちゃんそろそろ帰ってくるな」

日付が変わりそうな時計から目を逸らす。兄がこっちに帰ってくる度二人の高校時代のお友達が開いてくれるらしい飲み会に行っている二人が、もう帰ってくるだろう。飲みすぎないようにと口酸っぱく言ったけど、たぶんかなり酔ってるだろうな……。そう思っているとチャイムが鳴った。すぐに玄関に小走りで向かう。

「おかえ、ぐふっ」
『ただいまー!』

ドアを開けた瞬間かまされたタックル。そのままフローリングに尻餅をついてしまう。

『ただいま沙季ー』
「お、おかえり。うわ、酒くさっ」

正面から抱きつかれて動けないまま、においに思わず顔をしかめた。そんなこと聞いてない二人はわたしの耳元で上機嫌に笑ってる。毎度のことながら相当酔ってるらしい。

「ほ、ほら靴脱いであがって」
「いいよ、ここでー」
「よくないよ……」
『んー、沙季かわいい』

前の会話から繋がってない言葉のあと、ちゅう、という音が両頬からした。外国暮らしでこれが挨拶になっているらしい兄からされるのは慣れてる。楽しそうに笑う二人の背中をぽんぽんと叩く。そのあとなんとかリビングまで移動した。

「何してんの!?」
『飲み直し』
「何言ってんの! ダメだよ!」
『大丈夫大丈夫!』
「大丈夫じゃない! 散々飲んで来たんでしょ」
「そんな飲んでねえって!」
「嘘だねそれは!」

冷蔵庫から酎ハイを出しソファーに座った兄にぎょっとした。二人ともお酒に弱い。のに飲みたがる。以前体調が悪くなって病院に行ったとき、酒は飲みすぎないようにと言われたのだ。それ以来わたしがしつこく言ってるわけだが二人は中々聞かない。あっちで飲みすぎてないかが一番心配だ。二人の手の中にある缶を取り上げるが、取り返されてしまう。

「病院でも言われたでしょー! 身体悪くなったらどうすんの!」
「俺らあっちではそんな飲んでねえんだよ? 帰ってきたときぐらい良いじゃん!」
「あっちでも飲んでるでしょどうせ! ほらダメだって!」
「あー! 俺の酎ハイ!」
「わはは! アキ残念」
「いいじゃん沙季ー」
「これうまー!」
「あああ! ハル飲むな!」
「うわ、ほんとだ!」
「ちょっとだめだってー!」
「怒んないでよ」
「沙季もおいで」
「わたしはいいから、 わ、うわ」

突然無理やり二人の間に座らされる。抜け出そうとするより先に両側から二本ずつ腕が回されて出られない。歌い出しそうな様子で笑う二人に顔が引きつる。そのあとも私と兄の酎ハイを巡る争いは二人が眠るまで続いたのだった。




「みたいなことがあったね、前回兄ちゃんが帰ってきたときには」
「そんな料理下手なのか」
「最初に比べたら上手になったよ。最初はこう……何作っても真っ黒だったから……」
「それもすげえな……」
「二人とも酒弱いんだ」
「うん。しかも記憶なくすからたち悪いんだよね。お酒弱いのに自覚が足りないというか……」
「沙季殿は心配なのでござるな」
「そうなんだよ……」
「兄上殿想いでござる」
「沙季の兄ちゃん、会ってみたいなあ」


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