「すごい筋肉……」

風呂上がり、洗面所から出たところでちょうど沙季と鉢合わせた。沙季の視線は何も身に着ていない俺の上半身に向けられている。

「そうか?」
「うん。元親ほどムキムキな人現代では珍しいと思う。スポーツ選手とかじゃない限り」
「沙季はガタイのいい男は好きか?」
「うーん、わたしは細マッチョぐらいが好き」
「……そうか」

こういうとこはほんとに気を使わないというかなんというか。おそらく俺ぐらいのガタイの奴は沙季の好みではないんだろう。なんとなくそんな気はしてたけどな……。細マッチョってあれだろ、真田ぐらいのやつを指すんだろ。それか毛利か。アイツだと思うと余計に気に入らねえな……。

「でもないよりはある方がいいよね。元親ぐらいもかっこいいと思う。元親は背も高いし」

こんなことで気分が良くなる自分は現金だと思う。顔が緩みそうなのがばれてないかだけ心配だった。ワイシャツを七分袖に捲っている沙季の腕を取る。

「ん?」
「部屋で話そうぜ」
「いいけど、とりあえず上着たら? 風邪ひくよ」
「大丈夫だよ。風呂上がりだから暑いんだ」

部屋に入り、腰を降ろす。同じ階でもリビングから離れたこの部屋はそれなりに静かだ。

「髪の毛濡れてる」
「ああ」
「元親だけじゃなくて、みんなもあんまり髪拭かないで出てくるよね……?」
「あれか、ジェネレーションギャップってやつか?」
「すごい、そんな言葉知ってるんだ」
「まあな」

首にかけていたタオルで髪の毛を拭く。

「元親は前髪降りてると雰囲気違うね」
「前も言われたなあ、それ」
「ギャップがあっていいね」
「片倉が風呂上がりで髪降りてたときに比べて、俺のときは反応薄くねえか?」
「……いや、そんなことないよ」
「おいなんだ今の間」

可笑しかったのか、沙季が笑う。つられて自分も笑ってしまった。笑い終えた沙季が、俺の右脇腹の二つの傷跡を指差した。

「痛そう」
「今は全く痛くねえよ」

細い指先がそろりと傷跡に延びる。沙季の手は基本冷たいため、触られたら風呂上がりの身体では更にひんやりと感じるのだろうと思った。あと少しで触れそうだというところで、指は離れていく。やめるのか。

「触らねえんだな」
「うん、なんか、触るのは悪いかなと思って……」
「そうだな、迂闊にこういうことしねえほうがいい」
「うん」
「俺は触られてもいいけどよ」
「はは、いいんだ」
「おう」

上半身裸で沙季と二人でいるところを他の野郎に見られたら確実にシメられるだろうなと思った。
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