「幸村っていい名前だね」
彼女は唐突にそう言った。あまりにも突然だったので頭が付いていかなかったのだが、沙季殿の腕に抱えられた崩れ落ちそうなほどこんもりとした洗濯物を見てハッとする。とりあえずそれを慌てて受け取った。
「そ、そんなに抱えられては危のうござるよ」
「ごめんごめん、ありがと」
再び物干し竿に向かっていき、洗濯物を取り始める彼女。自分もその横に並んだ。
「よく名前褒められない?」
「某の記憶の限りでは……」
「え、そっか。あんまりそういうことしないのかな?」
「この時代ほど、ないのやもしれませぬ」
「そうなんだ」
きっと彼女は再び限界まで洗濯物を抱えるだろうから、そうならないようにと自分もハンガーから服を外す。この作業は今もなかなか慣れない。
「幸せの村で幸村って、すごくいい名前だと思って」
順調に腕に洗濯物を納めていく彼女の横顔に視線をやる。夕陽のせいで茶色の髪は橙色に染まっていて、それも似合っていると思った。
「前から言おうと思って忘れてた。幸村に似合ってる、幸村って名前。なんか変な言い方だけど」
そう言って沙季殿は頬を緩めた。彼女は取り終えた洗濯物を置くため、室内へと戻っていく。
「名前を褒められるというのは、こういう感覚なのでござるか……」
胸の奥の方がなんだかむず痒い。妙に照れ臭くなった自分と、手の中にある外しかけの洗濯物だけが庭に残っていた。