「元親」
「……あ?」
「あ! ごめん、政宗」

振り返った先に立っていた沙季が、ハッとしたように片手で口を押さえる。よりにもよって西海の鬼の名前かよ。罰が悪そうな沙季に近よると、少しびびったような目が見上げてきた。………。

「別に怒ってねえよ」
「ごめん、なんかそう見えたから……」

沙季は俺が怒ってないとわかって安心したようだった。……俺はそんなにすぐ怒るように見えるのだろうか。確かに気は長くねえが。頬に触れると同時に、沙季の顔がゆっくりと上がった。

「俺はアンタには怒ったりしねえ。だからびびったりすんな。沙季にそんな風にされる方が嫌だ」

沙季には、びびられるのはもちろんのこと、怒らせないようにと変に気を使われたりしたくない。実際はshockという言葉が一番しっくりくるが、格好がつかないので嫌だという言葉に置き換える。沙季は少し驚いているように見えた。

「うん、わかった。ごめんね」
「ああ」
「政宗はこう、眼光が鋭いから、つい怒ってるのかなって思っちゃって」
「……もとからこんな顔なんだよ」

沙季が短く笑う。垂れる彼女の髪に指を通し、耳にかけた。

「俺と西海の鬼は似てねえだろ。間違えるか?」
「なんかつい……。でも二人雰囲気似てるよね」
「似てねえ」
「そんな即答……?」
「俺は政宗だ」
「うん」
「呼んでくれよ」
「名前?」
「ああ」
「政宗」
「One more」
「? 政宗」
「Good」


オチない。
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テーマ「人外ファンタジー」
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