※彼女が見舞いした風邪引き幸村が寝ている間の話





幸村くんの部屋には剣道の竹刀と防具、それからたくさんのトロフィーが置かれていた。剣道はかなり強いらしい。部屋全体は割りとシンプルだった。幸村くんが眠ってから数十分。物には触らないように室内を見たり、携帯をいじったりして過ごしていた。彼はぐっすり眠っているようだ。寝苦しそうだったらどうしようかと思ったが、安心した。


「……の」
「あ、なに?」


携帯に向けていた顔を上げ幸村くんを見る。が、彼は目を閉じていた。近くに寄って顔を見るがやはり眠っている。寝言だったらしい。離れようと、彼を見たままゆっくり後ろに下がった。


「なまえ、殿……」
「ん?」


呼ばれた自分の名前に返事をするが、幸村くんはやはり寝ている。彼の夢に自分が登場でもしているのだろうか。そう思うとなんだか照れ臭い。綺麗な顔だな、と思ってそのまま幸村くんを見ていると不意に彼の目が薄く開いた。何も言わないので小さく名前を呼んでみるが、反応がない。熱もあるし頭が起きていないのかもしれない。


「……ほしい」
「飲み物? スポドリならここに、」
「ほしい……なまえ」


それだけ言って幸村くんは再び目を閉じる。言おうとしていた言葉の続きは、出てこず、ペットボトルに伸ばしていた手が宙で止まった。いつも立派な敬称つきで呼ばれている自分の名前が、今は呼び捨てで。そして、今の言い方では自分がほしいと言われているようだった。本当は違うと、わかってはいるが。


「か、顔が熱い……」


赤くなっているだろう頬に自分の手をあてる。先程よりも少し穏やかな幸村くんの寝顔に妙にドキドキしてしまった。
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テーマ「人外ファンタジー」
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