二年に進級して今日で三週間。早いな、と思う。最初に猿飛たちといたことで、あまり女子とは話さなかった名前と私。その間に他の女子たちはいつの間にか皆仲良くなっていて、出遅れた!と言った名前と共に話しかけたら、前から仲良くなりたかったと言ってもらえた。今では皆話せる。クラスの女子の名前なら全員言えると名前に言ったら、私はかすがより前に覚えてたと言われた。その名前が、本鈴が鳴った今もまだ来ていない。


「……名字殿、来ておりませぬな」
「連絡がないから休みではないだろう」


真田が名前の席を見て、奴にしては小さな声で呟いた。携帯を開くがやはり連絡は来ていない。もうすぐSHRも終わり授業に入る。電話をしてみるか、とアドレス帳を開いたとき廊下から誰かが駆けてくる足音が聞こえてきた。


「お、遅れてすいません」


教室の前のドアをそろそろと開けて入ってきたのは、案の定名前だった。


「おお、どうした?」
「ね、寝坊です」


恥ずかしそうにしながら答える名前に、教室からくすくすと笑いが起こる。担任にもう一度謝ったあと、クラスメイトと挨拶や短い会話をしながら席に近づいてきた。


「やはり寝坊か」
「おはよう、かすが。はは、またやっちゃった……」
「気をつけろよ」
「うん。ごめんね」
「名前ちゃん、おはよ」
「おはよう。おはよう、真田くん」
「お、おおはようございまする!」


私は最近不思議に思っていることがある。それは真田の名前に対する態度だ。今も名前に挨拶され、顔を真っ赤に染めている。異性が苦手なのは充分知っているが、挨拶だけでここまで顔を赤くするのは今まで見たことがない。そしてそれは進級した最初の頃よりも酷くなっている気がする。名前はただ真田が女子が苦手だからと思っているが、これは、もしかしたら。








「お前らに聞きたいことがあるんだが」


昼休みに真田を抜いた四人に声をかけた。真田も名前も今は教室にはいない。購買かトイレだろう。

「どうしたんだ?」
「真田のことだ」
「旦那がどうかした?」
「アイツは名前に惚れているのか」


そう聞いた途端全員が「ああ、やっぱりそのことか」と言いたげな顔をした。予想が当たったことへの驚きが無意識に口から漏れる。


「やはりそうなのか!?」
「多分。てか、絶対だ」
「じゃあいつか真田は……」
「いや、絶対好きなんだけどさ」
「当の旦那が名前ちゃんを好きだってことに気づいてなくて……」
「……は?」
「いや、だからね」


そのあと猿飛から聞かされたこと。真田は視線をよく名前に向けている。名前の名を出すと明らかに動揺する。この間の帰り道、前田が不意に名前の話題を出した直後電柱に激突したそうだ。他にも、名前と会話をするときだけどもること、異常に顔を赤くすることがあるらしい。


「幸村本人も名前ちゃん相手だと緊張するとか」
「名前といると心拍数が変に上がるとか」
「名前と話すと急に暑くなるとか」
「言ってるんだけど、その理由が全然わからないって……」


勉強ができるできないではなく頭はあまりよくなさそうだとは思っていたが、ここまでだったか。何故それらが名前を好きだということに結びつかないんだ。女子が苦手で恋をしたことがないというのは聞いていたが、それにしても鈍いんじゃないだろうか。


「もうお前らが名前を好きなんじゃないのかと教えてやったらどうなんだ」
「それはできないよ!」
「何故だ?」
「恋なんか破廉恥!って言ってる幸村に俺たちが教えても、絶対違うって言うだろうしさ」
「感情まで否定する可能性もある」
「真田が自分で気付かなければ駄目だということか」
「そうだね」
「俺たちは幸村が自覚するような協力をしてえと思ってるわけよ」
「なるほどな」


前田たちはいつもに比べて妙に真剣だ。友人の恋路だからか、こいつらは真田を応援したいらしい。当の本人がわかっていないのに応援をするというのも少し変な話だが。息を吐いた私に、前田が不思議そうな顔を向ける。


「何だ?」
「いや、かすがちゃん、幸村が名前ちゃんを好きなことに肯定的だなーと思って」
「そういえば一年のとき名前ちゃんが言い寄られるとかすが嫌がってたよな」
「……何故お前が知っている」
「あはは」


こいつが情報通なのは相変わらずか。猿飛を睨んでからため息を吐いた。私は軽そうな奴が名前に近づこうとするのが嫌だったのだ。全てを否定しているわけではない。


「私は真田のような奴なら悪くはないと思っただけだ」
「へえ、アンタにしちゃあ褒めてるな」
「黙れ」
「俺もあの二人はお似合いだと思うんだけどなあ」
「名前は幸村のこと何か言ってねえのか?」
「……女の子本当に苦手なんだね、とか。いい人そうだよね、と言っていたな」
「……人としての評価は悪くねえみたいだな」


道のりはまだ少し長そうである。



04



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -