「元親くん以外のみんなは、一年のとき同じクラスだったの?」


昼休みの教室、集まり話していた幸村たちにかすがと共に購買から帰ってきた名前が質問を投げかけた。彼女の持つ袋の中には甘そうな菓子パンが数個入っている。


「ううん、みんな同じわけじゃないよ」
「あれ? そうなんだ」
「何でだ?」
「すごい仲良いからさ」


席に着きパンの袋を開ける名前。彼女をぼんやり見つめる幸村と名前の視線がたまたま交わる。が、幸村が急いで反らしたためそれはほんの一瞬だった。赤い顔で下を向く幸村を見て名前が困ったように笑う。


「俺たち元中なんだ」
「俺様たち五人とかすがと、隣のクラスの毛利の旦那が一緒だったんだよ」
「へえ!」
「私、名前に前にこの話しなかったか?」
「あ、そういえば」
「全くお前は……」


かすがに言われ以前の会話を思い出したらしい名前が苦笑しながらごめんと呟いた。そのあとも続く女子二人の会話を佐助たちが笑いながら見つめる。少ししてトイレに行くと言って立ち上がったかすがを皆で見送った。


「かすがちゃんと名前ちゃんも仲良いよな」
「私がかすが大好きだからだね」
「かすがちゃんもそう思ってると思うよ」
「ほんと? ありがと」


頬杖をつく慶次に名前が嬉しそうな笑みを向ける。おもしろくない。丁度その様子を見ていた幸村は一番にそう感じたが、何故そう思うのか理由がわからなかった。胸にかかるもやもやに一人首をかしげた。






「真田、名前がいると全然喋んねえんだな」
「そ、そうでござろうか」
「俺も見てて思った」
「………」
「旦那も前よりはましになったと思ったんだけどなあ」
「やっぱり女の子と話すのは苦手かい?」


グラウンドで活動する生徒たちの声を聞きながら、クラスの五人と元就で歩く帰り道。慶次の問に何と返せばいいのか迷う幸村が、僅かに視線を落とす。自分が名前がいると話さないのも幸村は自覚していた。


「自分でも以前より女子と話すのは慣れたと思っていたのでござるが……」
「じゃあ何でだ?」
「名字殿とは、上手く話せぬのだ。他の女子よりも何故か緊張してしまう」
「え、名前ちゃんにだけ?」
「うむ」


友人たちが急に考えるような顔をしたことに幸村が僅かに首を傾けた。


「他に名前にだけ違うことってあんのか?」
「名字殿といると急に動悸がすることがあるのでござる」
「……他には?」
「何故か名字殿を見てしまうことが多いのだ」


幸村の言葉を聞いた全員が彼に視線を向けたまま反らさない。伏せていた顔を不意に上げた幸村本人は、皆の様子にきょとんとしている。野球部がヒットを打った音がタイミングよく響いた。


「如何した?」
「Ah……」
「いや、それって」
「真田くん!」


何かを言いかけた慶次を遮るように、彼らの背後から響いた女子の声。一番に振り向いた幸村の目が見開かれる。


「名字殿!」
「よかった、間に合って」


名前は動かしていた足を止めて頬にかかる髪を手で退ける。息を整える彼女が幸村に差し出したのは、彼が見覚えのよくある赤い携帯電話。


「それは某の……」
「机の上に忘れてたよ」


そう言って手渡される赤。間に合ってよかった、と言う名前の息は未だ少し切れていた。自分のためにわざわざ走って届けてくれたのか。そう思うと幸村の胸の奥が疼くような不思議な感覚がした。


「か、忝のうござる」
「どういたしまして」
「よかったな、幸村」
「じゃあ、私戻るね」
「、あ」
「お、バイバーイ」
「じゃあね!」


そう言って来た道を戻り始めた名前に幸村が焦ったように声をかけた。幸村は自分でも驚いたが、彼女が行ってしまうと思うと無意識に声が飛び出したのだ。名前が立ち止まり振り返る。


「あ、の」
「?」
「ま、また、明日!」


幸村から言われるとは思っていなかったのだろう。名前が少し目を見開いた。だがその顔もだんだんと緩んでいく。


「また明日!」

笑顔で手を振り校舎に駆けていった名前の後ろ姿を見つめる幸村。そしてその幸村をその場にいた彼以外の五人が見つめる。


「幸村」
「………」
「真田」
「………」
「旦那、顔真っ赤だよ」
「……ぬお!?」


友人たちの存在を今思い出したかのように振り返る。その顔は佐助の言う通り真っ赤だった。夕陽のせいなどとは言えない程に。


「そういうことか」
「Oh! まさか真田がな」
「そっかあ! 幸村にもついに!」
「よかったなあ」
「俺様も嬉しいよ!」
「ど、どうしたのでござるか?」



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テーマ「人外ファンタジー」
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