「おはよう!」
「あ、おはよう」
「はじめまして。俺は前田慶次」
「前田くん? わたしは……」
「慶次でいいよ。名前ちゃんだろ? 別嬪さんだね!」
「あ、……え?」
「いきなり何言ってんだ」


進級して二日目の朝、自分の席に座っていた名前に声をかけたのは慶次。にこにこと笑う彼は登校してきた元親に後ろから頭を叩かれていた。いてっ!と言う声が人もほとんどいない教室に小さく響く。慶次は大きな手でポニーテールの揺れる自分の頭をさすった。


「元親くん、おはよ」
「よっ」
「早いね」
「新学期早々寝坊はさすがにマズイからな。アンタも早いじゃねえか」
「わたしも同じ理由だよ……」
「痛いよ、元親。本当のこと言っただけなのに」
「アンタが名前か」
「う、うん」


不満げな慶次たちのやり取りを見て名前が苦笑を溢していたとき、元親の後ろから政宗が現れた。鋭い左目に見つめられ、名前が少し目を泳がせる。


「政宗、ガン飛ばすなよ」
「飛ばしてねえよ」
「目付き悪いぜ」
「元からだ」


慣れっこだというように政宗は言った。伊達くん、見た目は少し怖いけど話してみるといい人だ。慶次くんはフレンドリーだな。四人で話していて名前が思ったことがそれだった。そのあと少しずつ教室に入ってきたクラスメイトと挨拶を交わしていく。暫くしてかすがも登校してきた。


「あれ? 真田くんと猿飛くん来てないね」
「真田が寝坊でもしたんじゃねえか?」
「ありえるな」


もうすぐ本鈴がなる時間だ。昨日新学期が始まったばかりということもあるだろう、クラスの者もほとんど来ている。名前が時計を見ようとしたとき、例の二人が走って教室に入ってきた。


「疲れた……」
「すまぬ、佐助」
「いいよ。間に合ったんだし、結果オーライ」


挨拶をしながらこちらへ向かってくる二人。疲れたと言う割には佐助も、もちろん幸村も息が切れていない。


「おはようございます!」
「やっぱり寝坊だったんだ」
「う、うむ……」
「ギリギリだぜ」
「おはよう」
「お、おおは、よう、ございます!」


名前が挨拶をした途端幸村の顔が妙に強ばった。どもりまくりの挨拶をしたあと、すぐに自分の席に行ってしまう。そんな幸村を驚いた表情で見つめる名前。他の者は、またかと言いたげな顔をしている。


「わたし、なんかしちゃった……?」
「気にすんな。真田は女子にいつもああだ」
「え?」
「真田の旦那は女の子と話すのも苦手でね」
「そ、そうなの?」
「かすがちゃんぐらいじゃないかい? 普通に会話できるの」
「へえ! 仲良しだね」
「別に嬉しくないんだが……」
「にしても、いつにも増して旦那がどもってた気がしたのは俺様の気のせい?」
「確かに、言われてみればそうかも」


そのあとすぐ会話を遮る本鈴が鳴り、皆席に着いた。ふと名前が隣の幸村を見ると、結ばれていない髪に寝癖が。彼の自然な茶色の髪が可笑しな方向にはねている。男子にしては可愛らしいそれに名前は思わず小さく笑った。


「真田くん」
「あ、な、何でござろうか?」
「髪の毛ちょっと跳ねてるよ」


名前が自分の髪を指差しながら言うと、幸村はバッ!という表現がぴったりな速さで自分の髪を押さえた。恥ずかしいのだろうか、顔が赤く染まっている。そんな反応をするとは思っていなかったらしい名前が数回瞬きをした。


「あ!」
「どうした? 名前」
「わたし寝癖直しのスプレーある!」
「え?」
「よければ使って」


ガサガサと自分のバッグを漁った名前は中から持ち運び用らしい小さなスプレーを取り出しそれを幸村に差し出した。スプレーを見つめたあと幸村は躊躇いがちに手を伸ばす。それを置こうとした名前の指先が幸村の手に軽く触れた。


「!?」
「わっ」
「も、申し訳ござらぬ!」


勢いよく幸村が手を引っ込めたためスプレーは重力に従い床に落ちた。それを名前が拾い上げて持った手を再び幸村に伸ばす。


「はい」
「忝のう、ござる」
「どういたしまして」
「旦那、やったげるよ」
「わ、悪いな」

幸村の髪にスプレーをかける佐助を見て、母親のようだな、と呟いたかすがに名前が笑う。彼女を直視できない自分を疑問に思う幸村の寝癖は、そのあとすぐ綺麗に治ったのだった。



02

(名字殿に寝癖を指摘されたことが、何故あんなにも恥ずかしかったのだろうか……)
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