登校してきた幸村を待ってましたとばかりに政宗たちが出迎える。皆一様に口角が上がっていた。彼らがそうである理由がわかったらしい幸村も少し恥ずかしそうに顔を緩める。


「幸村よかったな!」
「無事仲直りだね」
「皆が背中を押して下さったおかげにござる。ありがとうござりました」
「いえいえー」
「もう同じこと繰り返すなよ」
「うむ」


久々に心からの笑みを浮かべた幸村を見て政宗たちも笑った。そのあとすぐに教室に入ってきたかすがが、幸村たちの元へ歩み寄る。前に彼女に怒られたこともあり少し緊張する幸村を見て、かすがが息を吐いた。


「名前と話したらしいな」
「謝ることができ申した。かすが殿にも誠に申し訳ないことを、」
「私に謝る必要はない」
「しかし」
「もう名前を泣かせるなよ」
「……大切にいたしまする」


まっすぐにかすがを見つめる幸村からは強い決心が伺える。かすがも安心したように、ああ、と言って小さく笑った。ほっと息を吐く幸村の視界に教室に入って来た名前が写る。誰よりも早く幸村は彼女に歩み寄った。


「おはようございまする」
「おはよう」


嬉しそうに微笑みながら挨拶を交わす二人を見て政宗たちも頬を緩める。これでようやく普通になった。幸村たちが気まずい状態であったことをよく知っていたクラスメイトたちも今の二人に微笑みながら暖かい視線を送っていた。


「これから名前はずっと真田と帰るんだろうな……」
「あー、正式に名前ちゃんを旦那に取られちゃって寂しいのね、かすがは」
「な! そ、そういう訳じゃない!」
「俺たちがいるよ!」
「お前らなんかじゃ名前の代わりにはならない」
「ひでえ……」
「お、噂をすれば」


窓から外を見ていた元親の視線を辿ると、そこには共に帰る幸村と名前の姿が。前よりもぐんと近づいている二人の距離に気づいた政宗が口笛を鳴らす。校内を出る二人の後ろ姿を、皆で笑みを浮かべながら見送った。



******



隣を歩く名前殿がなんだかとても近く感じる。動悸はするが、以前のようなどうすればいいのかわからない、不安の混ざるものではない。心地のよいものだった。


前に名前殿の手を振り払ってしまったとき俺は偶然触れてしまったのだと思ったが、あのとき彼女は俺と手を繋ごうとしてくれていたらしい。かすが殿に後でそのことを聞いて初めて知った。俺が振り払ったことに、彼女が深く傷ついたことも。隣にいる名前殿の手をちらりと見る。日に焼けていない白い手。手を繋ぎたい。何も言わずに握ってもいいのだろうか。


「あの!」
「ん?」
「て、手を、繋いでもよろしいだろうか」


立ち止まり、意を決してそう言うと彼女はぱちぱちと瞬きをした。断られるのでは、という不安から目がふらふらと泳いでしまう。数秒経った後、不意に左手を握られた。驚いて彼女に視線を戻す。


「何も言わないで繋いでくれていいのに」


笑みを浮かべて、再び歩き出した名前殿。自分も急いで足を動かす。名前殿が隣で笑ってくれることがこんなに嬉しい。これからもっと彼女を大切にしよう。名前殿の手を握る力を強めて、自分にそう約束する。名前を呼んで、振り返った彼女と足を止めた。手を握る力を少しだけ強める。


「慕っております」
「………」
「これからも、ずっと共にいてくだされ。好きだ、名前」


唐突に伝えたくなった言葉を少し震える声で紡ぐ。おそらく俺は赤い顔をしているのだろう。俺の言葉を聞いた後、名前は更に目を円くした。だがその目もだんだん細まって最後には嬉しそうに笑う。彼女が不意に俺に抱き付いた。軽い衝撃の後、背中に回る細い腕。


「大好き、幸村」


ずっと一緒にいようね。


穏やかな声でそう言って名前は笑う。酷くなった動悸と発熱。心音もこの熱も名前には全て伝わっているんだろう。彼女がこうしてくれるのが恥ずかしくて、照れ臭くて、すごく幸せで。俺は返事の代わりに、愛しい彼女を強く強く抱き締めた。



ラブシック!



110409~110906

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