窓から差し込む夕陽が教室内を染め上げる。運動部の大きな太い声がよく聞こえてきた。政宗の言葉に固まる幸村。佐助たちは二人に交互に視線を向ける。流れる沈黙を破るように政宗は、なあ、と声を発した。


「アンタが名前を避けてるのは、恥ずかしかっからだろ?」
「そうだ」
「酷ぇな。そんな自分の勝手な理由で、惚れてるはずの女避けるなんざ。悲しんでることにも気づかねえでよ」
「………」
「好きなこと忘れてる以前の話か? そんなことできるのは、名前のこと本当に好きじゃねえからかもな」


どこか挑発するような低い声。怒りから幸村の顔がカッと赤く染まる。


「違う! そんなことはない!」
「じゃあなんで恥ずかしいからってあんなことできるんだ?」


切れ長の左目が細まる。ぐっと押し黙った幸村の視線が床に落ちた。佐助たちは黙って政宗たちを見守る。理由があるなら言ってみろよ。そう言われた幸村は少ししてから小さく口を開いた。


「周りに言われるのが、本当に恥ずかしかった。あんなに色々聞かれたり、教室に見に来られたりすると思っておらなんだ」
「それが耐えられなかったと」
「だが、政宗殿の言うとおりだ。そうだと言って名前殿をあのように避けていいはずがなかった。どこかで恋仲になったのだから大丈夫だろうと、許されると甘えていたのだ」
「………」
「……嫌われても仕方ないことをした。俺は、最低だ」


顔を歪める幸村は今にも泣き出しそうだ。この男は本当に不器用だと、政宗は再びため息を漏らす。政宗に変わるように慶次が優しく幸村を呼んだ。


「名前ちゃんのこと、好きかい?」
「はい」
「どこが好き?」
「全部」


迷いのない即答。予想通りの返答に慶次は柔らかく笑う。


「具体的に教えてよ」
「寛容なところも、どんな話も聞いてくれるところも、笑った顔は、特に。遅刻が多いところも、少し気分屋なところも……元親殿によく話しかけるのは嬉しくないが」
「はは、うん」
「それでも全部、好きなのだ」


嫌いなところなんてない。彼女なら嫌なところも全部好きになれる。頭に浮かぶ顔と声。自分でも気付かなかった、いつの間にかこんなにも彼女を好きになっていたのだ。幸村の目からぽたりと涙が流れる。手の甲で目を押さえる幸村の背中を、佐助が優しく撫でた。皆小さく笑みを浮かべる。


「名前殿に謝りたい」
「ああ、そうしな」
「……許してもらえるだろうか」
「大丈夫だよ。保証するぜ」
「名前ちゃんのことこんなに好きなんだってことも伝えてあげな。絶対喜んでくれる」


慶次の言葉に幸村は小さく頷く。それから以前彼女に届けてもらったこともある、赤い携帯を取り出した。会って、謝って、伝えたい。連絡するため折り畳み式のそれを開いた直後、携帯が一件のメールを受信した。表示された名前に幸村は目を見開く。


「名前殿から、メールが」
「え?」
「なんてきたんだ?」


本文を写し出したディスプレイを全員で覗き込む。


『今日8時に学校の隣の公園に来てください。待ってます。』


絵文字も何もない簡潔な文章。内容を読んだ全員が一時固まった。


「……別れ話?」


ぽつりと呟いた元親が幸村以外の三人に思い切りど突かれる。幸村はただ一人、呆然と液晶を眺めていた。



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