昨日の放課後名前を追いかけた幸村は、普段からは想像できないような暗さを纏って教室に帰ってきた。追いかけたあと何があったか伝える幸村は、暗いというかもう抜け殻みたいな状態で。そんな幸村を皆、なんでちゃんと話さかったんだと責める気にもなれずそのまま解散になった。家に帰ったあとも幸村は何も話さないままぼーっと、そして時折悔しそうに唇を噛み締めていた。そんな状態のまま、日付が変わり今日である。
「おい、ヤバいだろ」
「どうすんだよ」
「家でもあんなだった?」
「うん……」
友人たちへの挨拶もそこそこに自分の席に行ってしまった幸村を見つめ四人は頭を寄せる。昨日のことが相当堪えているらしい。自分が悪いというのは幸村本人も痛い程わかっているようだが、混乱してもうどうすればいいのかわからないというように見える。もうすぐ本鈴が鳴るという頃に名前が登校してきた。彼女を見つけた幸村が勢いよく立ち上がる。名前が少し目を腫らしているのがわかると、幸村は顔を歪めて立ち尽くすだけだった。今は席も離れてしまったため気軽に話すこともできない。毎朝必ず彼女は幸村におはようと言いにくるが今日はそれがなくそのことも幸村が話す決心を鈍らせた。
「真田は名前にフラレたのか」
「ちょっと、かすがちゃん」
「縁起でもねえこと言うなよ」
「ふん、自業自得だろ」
そっぽを向いてそう言うかすがは、昨日の怒りがまだ収まらないらしい。人気のない階段で五人で話すが別段話しは進まない。元親が飲んでいるジュースのパックが空になり虚しい音を立てる。
「名前は真田のこと、なんか言ってねえのか?」
「今日は何も言っていなかった。不自然なくらいにな」
「そうか……」
「何故真田は何も言わないんだ」
「嫌われたと思ってんのかなあ……」
「名前と向き合うのが恐いとか」
「とんだ根性なしだな」
吐き捨てるようにそう言ったあと、先に戻る、と言い残して階段を降りていく。あんな言い方をするが、かすがだって二人に上手くいってほしいと思っているのは佐助たちにもわかっていた。名前の恋なら彼女も応援したいに決まっている。
「明日と明後日は学校休みだな」
「今のまま休日迎えんのはよくねえよ」
とりあえずふたりで話をさせるためになんとかしようと話し合おうとしたが、チャイムが鳴り教室に戻らざるを得なくなった。そのあとも授業が長引いたりで幸村と話す時間もなく、そのまま放課後を迎えてしまった。名前の姿は既になく幸村だけが教室に残っている。別々で帰ることになったのだろうか。
「旦那、名前ちゃんは?」
「先に帰ると申されていた」
俯いて言う幸村にいつもの元気は全く見受けられない。幸村の前の机に体重を預けた元親が口を開く。
「なあ幸村、アンタこのままで良いのか?」
「………」
「そんなんじゃ、名前が他の奴んとこに行っちまっても文句は言えねえぞ」
かばんを握る幸村の手に強く力が入り肌が白く染まった。唇を噛む幸村を四人が無言で見つめる。沈黙が妙に長く感じられた。
「謝りたいのだ」
「うん」
「だが、どんな言葉で言えばいいのかわからぬ。ごめんだけでは、許されない」
「………」
「それにまた手を振り払われるんじゃないかと思うと……」
泣きそうな顔で呟く幸村を見た政宗がため息をつく。それを聞いた幸村の肩が少しだけ跳ねた。どうしてこの男はこんなにも不器用なのか。
「真田、アンタ自分が名前を好きだってこと、忘れてねえか?」
政宗の言葉に、幸村は目を見開いた。
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