幸村と名前が恋人になって早一ヶ月。今、佐助の周りには冷たい空気が漂っていた。


「どういうつもりだ」
「いや、それは俺様に言われても……」
「お前はアイツの保護者係だろう!」


違うし、なんて言えない雰囲気に佐助が困り顔で黙り込む。冷たい空気の発信源は彼の友人のかすがだった。怒鳴る彼女を宥めようとした慶次たちにも怒りの火の粉が降りかかる。


「お前たちも真田の友人ならアイツに何か言ったらどうなんだ!」
「俺たちも言ってるんだけど……」
「なら何故ああなる!」


怒りが収まらないといった様子なのが見ているだけでわかる。彼女がここまでになるのも理解できるため慶次たちも強く言えない。


「アイツは名前を避けているだろう!」
「恥ずかしいんだって言ってたぜ……」
「何が恥ずかしいんだ!」
「さあな」
「真田がいつまでもあの状態なら、名前とは別れさせるぞ!」
「おいおい……!」
「ちょ、かすがちゃん!」


あの日、例の男子生徒からの告白を断り幸村を選んだ名前。彼女が幸村に惹かれていたのをわかっていたかすがも皆とともに祝福した。あのときの二人の照れの含まれる嬉しそうな笑みは今も彼らの記憶に残っている。


だが二人が恋人になってから幸村が名前を避けているのは端から見ても明白だった。あの幸村だから手を繋ぐのにも数ヶ月かかりそうだなんて笑い話のように言っていた佐助たちだったが、今の問題はそれ以前のことだ。彼らが恋人になったということはすぐに学年中に広まった。周りのひやかしももちろんあった。幸村はそれがあまりにも恥ずかしかったらしい。そしていつの間にか名前を避けるようになってしまったのだ。これは流石に佐助たちにも予想外だった。現在は名前が幸村に話しかけても、少し言葉を交わすだけですぐに幸村から離れていってしまうような状態だ。佐助たちも幸村にしきりに注意しているのだが彼はなかなか直せないらしい。二人の関係が変なのを感じとった周りもひやかしを言わなくなったが、関係が好転した訳ではない。そして、二人が別れそうだとか別れたという噂もすぐに回った。それは全くの嘘だがそう思われても仕方ないのは事実だ。その噂は幸村の耳には入っていないようだが、名前はどうかわからない。寂しそうな笑みを見せる名前をかすがはもう見ていられないのだろう。二人の問題だと口出ししないようにしていた彼女も限界らしい。


「真田に言っておけ。私は本気だからな」


佐助たちを冷たく一瞥したあとかすがは教室を去っていった。無言で見送ったあと四人で顔を見合わせる。


「ありゃ相当頭にきてるな」
「そうだね」
「幸村が悪いよ……」
「まじで危ないんじゃねえのか」


政宗が眉を寄せて息を吐く。これは思った以上に深刻な問題だ。今幸村は彼女と一緒に帰っているはずだが、大丈夫だろうか。二人で帰るなんて恥ずかしいと言っていた幸村を説得して今は一緒に帰らしているがちゃんと会話をしているのかすら怪しい。


「大丈夫かよ……」


元親の呟きは空気中に消えていった。


******


恋人になる前はどれぐらいの距離を置いて彼女の隣にいただろう。今よりはもう少し近かった気がする。間をあけているのは他でもない自分なのだが。名前殿が何度も話題を振ってくれたが俺のせいで話はすぐに終わってしまう。この関係になってから緊張して言葉も上手く交わせない。今は無言のまま二人で歩いているだけだ。


不意に彼女の右手が俺の左手に触れた。驚いて反射的に彼女の手を払ってしまった自分。名前殿を見ると見開かれた彼女の瞳が僅かに揺れていた。


「も、申し訳ござらぬ!」
「……ううん、ごめんね 」


痛かったかもしれないと払ってしまったことに対して謝罪を述べる。眉を下げて笑う名前殿に急にズキンと胸が痛んだ。そのあとも結局何も話さず、今日はこっちだから、と言った彼女といつもより早く別れた。離れていく背中を見つめる。背を向ける彼女が目に涙を溜めていたことなど知る由もなかった。



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