「おっす、幸村」
「おはよう」
「おはようございまする」


朝登校すると、席に座る名前殿と前の彼から挨拶をされた。二人が話していても前のようにもやもやとしないのは、彼には恋仲の者がいるとわかったことや前のように名前殿と話すようになったことが大きく関係していると思う。


「あ、俺友達んとこに用事あるんだった。ちょっと行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
「幸村ここ座っとけば?」
「いや、某は」
「ほらほら」


腕を引っ張られ横向きに席に座らせられた。身体とぶつかった椅子がガタと音を立てる。いってきますと言って廊下に出る背中を見たあと、彼女に顔を向ける。


「おはよう、ございまする」
「おはよ」


笑う彼女を見て心臓が僅かに跳ねた。先日名前殿と共に帰ったあの日。鼓動が異常に早く緊張もしたがやはり嬉しくて、話していて俺は彼女が好きなんだと改めて思った。言葉を交わしているところで鳴った本鈴。席に着き始めるクラスメイトを見て自分も彼女に断り席を立つ。HRのあと偶然名前殿と目が合った。普段自分はどれだけ彼女を見ているのだろう。


「なに見つめ合っちゃってんの?」
「顔赤ぇぞ」


丁度視線を外したときニヤニヤと笑う佐助たちに席を囲まれた。隣のクラスである元就殿もいる。


「そろそろ決心した? 幸村」
「決心?」
「何とぼけてんだよ」
「名前ちゃんに告白する決心に決まってるでしょ!」
「は!?」


妙に楽しそうな笑みを浮かべる佐助の言葉におかしな声が漏れてしまった。


「おいおい、しないつもりとか言うなよ?」
「アンタが名前に惚れてるって自覚したあとから、俺たち十分待ったぜ」
「そろそろ時期だよ」
「で、できませぬ!」
「はあ? 何言ってんだ」
「まだ早いかと、」
「そんな悠長なこと言うていられるのか?」
「え?」


目を伏せた元就殿が唐突に呟いた意味あり気な言葉に俺は政宗殿たちと共に首をかしげる。聞き返したが元就殿はそれ以上何も言われず。その言葉の意味を知るのは、後になってからだった。


******


「名前」

いつもに比べて静かな教室内に響いた声。幸村たちだけでなく他の者も反射的に扉の方に目を向けた。呼ばれた名前は一人机で何か書いていた手を止め小さく、あ!と言ったあと呼んだ男の方に向かっていく。扉のところで少し談笑したあと二人一緒に廊下を歩いて行った。


「ちょ、今の誰?」
「たぶん毛利の旦那と同じクラスの……」
「俺と名前と一年のとき同じクラスだった友達だ」
「………」
「旦那、大丈夫……?」
「……うむ」


二人がいた場所を見つめる幸村に皆が心配そうな視線を向ける。あの男子生徒と名前が共にいるのを見たのは皆初めてではなかった。休み時間などに廊下に出ると二人で話しているのを見たこともある。自覚する前の幸村も何度か見かけて、何故か嫌な気持ちになったのは記憶に新しい。そのときはできるだけ見ないようにしていたが。


「なあ、真田」
「何でござろうか」
「毛利が言ってた、悠長なこと言ってられんのかって、アイツのことじゃねえのか?」
「どういう意味でござるか?」


不思議そうな顔をする幸村たちに政宗がため息をつく。


「野郎は毛利と同じクラスなんだろ? ならアイツなら察してそうだ」
「え……?」
「だから、アイツが名前に惚れていて、時期に告白するつもりってことじゃねえのか」


幸村が持っていた袋が彼の手から落下した。中味が出て小分けされている色とりどりの飴が床に散らばる。それに驚いた慶次たちが、うわ!と声を上げた。


「ちょ、旦那大丈夫!?」
「な、なるほど! 毛利はそういう意味で言ったのか!」
「早く言わねえと先越されちまうってことだろ」
「そうだよ幸村! 男前だったし、一年のときから仲良いなら危ないって!」
「そ、某は……!」
「旦那、一旦落ち着いて!」
「元親飴踏んでるよ!」
「うお!」
「早く拾えよ……」


告白を考え始めた矢先に他の者の告白疑惑が浮上した。パニックになっている幸村たちのせいで騒がしくなるクラス内。帰ってきた名前が幸村たちに楽しそうだなと暢気な視線を向ける。戻ってきた名前を見た幸村が顔を赤くして、そのあと意を決したように口を開いた。


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