席変えをして一週間経った。楽しそうに話す名前殿たちに、視線を向けるか見ないようにするかを繰り返している自分に嫌気がさす。席変えをしてから名前殿とは殆ど話さなくなってしまった。彼女にとって自分は異性の中では親しい存在ではと勝手に思っていたが、他の者と何も変わらないのだと改めて気づく。十分休みの今も席から動かず話している二人。以前は彼ではなく自分が、そこにいたのに。


「真田くん」
「な、何でござろう」


俺の名を呼んだのは隣の席の女子だった。席を変えてから話すようになった彼女。最初、私の名前わかる?と尋ねられ、名を言うと少し驚かれた顔をした。クラスメイトの名も覚えていないような輩に思われていたのだろうか……と思ったのは記憶に新しい。


「真田くんさ、名前のこと好きなんだよね?」


唐突に言われた直後、僅かに流れた沈黙。言葉の意味を理解したあと顔に一気に熱が集まった。


「な、なな、何故……!」
「やっぱり? 真田くん女子と話さないって有名なのに名前には話しかけてるし、名前殿って下の名前で呼んでるし。たぶん皆気になってると思うよ」
「そ、そうなのでござるか?」
「ほんとほんと」


前に佐助たちに言われた、クラスメイトは俺が名前殿を好きなことを知っているという言葉を思い出した。けらけらと笑う彼女を見て恥ずかしいやら何やらで更に顔が熱くなる。


「好きって、言わないの?」
「そ、それは今は……!」
「まだ仲を深めてる期間って感じ?」
「…… そう、したいのだが、席を変えてからあまり話せぬ故」
「そっか。アイツがずっと名前と話してるしね」


苦笑しながら名前殿たちの方を見る。あの御仁が名前殿に携帯の画面を見せている様子が視界に入った。驚いた表情をしたあと笑った名前殿にまた嫌な気持ちになる。何を、話しているのだろう。


「アイツはたぶん何も考えてないよ。名前を好きとかじゃないはずだから安心して」
「それは誠に……」「うん。真田くんは頑張れば大丈夫」


小さくガッツポーズをして、応援してるよ!と言ってくれた彼女に赤いだろう顔で頷いた。告白。いずれはしたいとも思う。でもそれより先に前のように話せるようになりたい。自ら動かなくてはダメだ。



******



「名字さん、これが彼女」
「わあ、可愛い人だね」
「でしょ? 今日放課後デートなんだ」
「楽しんできてね」
「もちろん」


にこにこと笑う彼の携帯にはツーショット写真が映し出されていた。彼女さんは他校で頻繁には会えないぶん、デートがすごく楽しみらしい。ラブラブだねと率直な感想が漏れた。携帯をいじっている彼を見たあと、窓側の後ろに目を向ける。真田くんが隣席の女の子と顔を赤くして話していた。胸がもやもやするような変な感覚がするのは何でだろう。


真田くんはあんまり女の子と喋らない。だから彼が話してくれる自分はちょっと特別なんじゃないかと思っていたが、それは違うと席を変えてすぐにわかった。席が近い人と話すのは自然なことだ。話しかけに行くのは彼が他の子と話していたり、迷惑かもと思うとできなくて、席が離れてから幸村くんとは殆ど話していない。私だからどうとかそういうことじゃないんだ。勘違いしてた自分が恥ずかしい。今、何話してるのかな。


「名字さん?」
「え? なに?」
「誰見てたの? 幸村?」
「うん、まあ」
「ふーん。アイツいい奴だよね」
「うん。私もそう思う」
「最近は女の子とも話してるし、ちょっと変わった」
「そうなんだ」
「好きな娘でもできたのかな」
「……幸村くん、好きな人いるの?」
「俺は知らない。佐助とかに聞いてみたら?」
「……いいや」
「何で?」
「いるって言われたら、どうすればいいかわかんない」
「応援してあげればいいんじゃない?」
「……うん」


幸村くんに好きな娘がいたら、自分は応援できるのだろうか。何となく、してあげられない気がする。何でかはよくわからないけど。一人考える私を見て、彼が苦笑していたことには気付かなかった。





放課後になり教室に人はあまりいない。前の席の彼は号令をした直後笑顔で教室を出て行った。振っていた手を降ろしてのろのろと帰り仕度をする。今日もバイトだ。恋人とデートなんて私には程遠いな……と思いながら鞄にいろいろと詰めていると。


「名前殿!」


声で誰かはすぐにわかった。パッと顔を上げるとそこにいたのはやはり幸村くんだった。同じクラスなのになんだか久しぶりな気がするのは、やはり席変えをしたからか。


「なんか、話すの久しぶりだね」
「う、うむ」
「どうしたの?」
「特に、用はないのだが」
「うん」
「名前殿と話したいと、思い……」


頬を染めて言う幸村くんに少し目を見開いた。幸村くんも話したいと思ってくれていたのか。私だけじゃなかった。心臓が少しドキドキした。それを落ち着けるように息を吐く。


「私も話したいって思ってた」
「誠に、ござるか?」
「うん」


頷くと幸村くんは小さく笑った。それを見て収まり始めた心臓がまたドキリと跳ねる。お、落ち着こう。


「幸村くん、もう帰る?」
「うむ。剣道の練習がある故」
「猿飛くんたちは?」
「寄り道をすると言って先に帰り申した」
「じゃあ、途中まで私と一緒に帰らない?」
「え……え!?」
「あ、嫌なら全然いいよ!」
「ち、違いまする! 帰りましょうぞ!」


用意をしてくると言って自分の席に走って行った幸村くんを見送る。断られるかと思ったけど、思い切って言ってよかった。何を話そう。前の席の彼に恋人がいる話を、幸村くんにも教えようかな。そんなことを考えながら準備をしている彼を待つ。疼くような心のまま、幸村くんと一緒に教室を出た。



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