名前殿が見舞いにきてくれた日から三日経った今日。次の日にでも学校に行きたかったが、その日遅くまで政宗殿たちと騒いだせいで熱が下がらず今日まで長引いてしまった。免疫がついていなかったのも原因だろう。佐助には全員で怒られた。


「幸村復活だ!」
「うむ。先日の見舞い感謝いたす」
「悪ィな、逆に悪化させちまって」
「名前にも来てもらえたし、風邪ひいてよかったんじゃねえか?」


不敵に笑う政宗殿の言葉に躊躇いながら頷く。確かに嬉しかった、とても。最後ずっと眠っていたのがどうしても残念だったけれど。あとは風邪をうつしていないかが心配だったが、名前殿は大丈夫だと佐助から聞いている。


「あ、幸村くんだ!」
「お、おはようございまする!」
「おはよう。もう大丈夫なの?」
「うむ。見舞い、嬉しゅうござった」
「いえいえ。治って良かった」


久しぶりに名前殿に会えたことにどうにも顔が緩んでしまう。顔もきっと赤いだろう。そのあと少し言葉を交わして、かすが殿もいる女子たちのところに行った彼女を見送った。


「あ!」
「どうしたの? 佐助」
「言うの忘れてたんだけど、旦那に残念な報告が……」


いきなり上がった佐助の声に僅かに驚いた。更に俺に残念な報告だと言われ変に緊張してしまう。


「な、何だ?」
「あのね、昨日、席替えしちゃったんだ」


気まずそうに言う佐助を見て瞬きをする。そのあと首をひねった。席替えの何が残念なのだろう。他の方とも親しくなれる良い機会じゃないか。自分の席はどこになったのだろう。隣になった方は誰だろうか。……隣?


「そ、某の席はどこでござるか!」
「真田は前と同じ席。窓側の後ろから二列目」
「名前殿は……?」
「名前はあっち。廊下側の前から二列目だ」
「二人、すごい遠くなっちゃったんだ……」


少し呆然としながら廊下側二番目の席に目を向ける。あんなに遠い。とても気軽に話せる距離じゃない。今までは隣だったため休み時間や授業中にでも話せたのに。好きだと自覚した直後に何てことだ。


「幸村は俺たちとかすがちゃんとは割りと席近いんだけどさ……って聞いてないね幸村」
「今の真田にとって俺たちと近いかはどうでもいいことなんだよ」
「名前ちゃんと近いかっていうのが大事なの」
「あんなに離れちまうとは」
「くじ引きって怖いね」






現在、三時間目の古典は先生の出張により自習だ。教科書から調べる課題が出ているがなかなか量が多い。そのせいか皆喋らずやっており、教室は静まり返っていた。


「ねえねえ、名字さん。これ終わる?」
「いや、終わんない……」
「てかこれ、この自習の一時間だけで終わるわけなくね?」
「ね。できなかったら宿題かなあ」
「うわ、無理。なあ、二人で分担しようよ」
「あ! いい考え!」
「やっぱ? じゃあ俺前半やるから名字さん後半やって」
「え、調べる量後半の方が多い気がするんだけど……」
「気のせい気のせい!」


静かだったからこそ、小さな声でされていた会話も聞こえてきた。声がする方に視線を向ける。一人は名前殿、もう一人は彼女の前の席の男子だった。二人の会話を聞いた他の者たちも自分たちもそうしようとしたのか、話し声で教室がざわめき始める。二人の会話は聞こえなくなった。だが何かを話して笑い合っている様子はしっかり自分の目に写る。


名前殿と話している御人は親切で誰とでも気軽に会話をする良い方だ。なのに先程から二人を見て、もやもやして仕方ない。席を変えて一日しか経っていないのに、あの方は名前殿とあんなに親しげに話している。羨ましいとか妬ましいとか嫌な感情ばかりが湧いてきた。話してほしくない。笑い合ってほしくない。自分に言う権利はないのに、そう思って仕方なかった。


「幸村のヤツ、完全に手止まってるぞ」
「名前の方見すぎだろ……」
「見るというかもう睨んでいるぞ、あれは」
「これから暫くはこの席だろ?」
「まだ二日目だぜ」
「旦那耐えられるのかな……」


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