天気がいいから外で食べようという慶次殿の提案で来た屋上。暖かい陽の光が降り注いでいて気持ちがよい。ついさっきトイレに行くと言って屋上を出たかすが殿。続いて佐助、政宗殿、元親殿、慶次殿がその場を立った。俺もトイレ、俺飲み物買ってくる、と言って一斉に屋上を出て行ってしまったのである。


そういう訳で、今この場には俺と名字殿の二人だけ。


(飲み物ならまだあるではないか元親殿……)


まさかこうなるとは思っていなかった。何を話せばいいのかまるでわからない。ちらりと隣を見ると、名字殿がブリックパックの紅茶を飲んでいるのが視界に入った。俺の視線に気づいたのか、彼女が俺に目を向ける。


「二人だけになっちゃったね」
「そ、そうでござるな」


名字殿は苦笑してまたストローを口にくわえた。そのあとすぐにそれをはずす。


「真田くんは部活入ってる?」
「い、いえ」
「あれ、そっか。サッカー部とかかなって思ってた」
「幼少の頃から剣道をしておるので、それだけにござる」
「へえ! そうなんだ」
「名字殿は部活に所属しておるのでござるか?」
「ううん。私はバイトしてる」
「おお、左様で」
「うん。よかったらバイト先来て」
「う、うむ」


反射的に返事をすれば、名字殿が笑った。自分の顔が熱いのがわかる。頬に手をあてると手の方が少し冷たく感じた。


「一年のとき、体育祭とか球技大会で真田くん活躍してたよね」
「え?」
「始業式の日に、あ!って思った」
「某のことをご存知だったのでござるか?」
「顔は知ってたの。真田くん、かすがと元親くんの友達だったし。体育祭とかで見たからね」
「左様で……」


知られていたということに驚き、活躍していたと言われたことが照れ臭かった。そして両方が嬉しいようなおかしな感覚がする。


「真田くんと猿飛くんは特に仲良いね」
「む、昔からの付き合いである故。同じ家で暮らしておりまする」
「え? そうなの?」
「某の剣道の師であるお方の家に住まわせて頂いておるのでござる」
「じゃあ三人で暮らしてるの?」
「いかにも」
「へえ。どんな人?」
「素晴らしいお方にござる! お館様は……」


そのあとお館様がどのような人物かを語った。人生の師だ、自分もお館様のようになりたいということを一通り。どれくらい時間が経っただろう。不意に自分が喋り続けていることに気付き、ハッとした。


「も、申し訳ありませぬ!」
「え?」
「一人べらべらと……」
「なんで? 全然いいよ」
「しかし……」
「真田くんとそんなに喋らないからさ、そういう風に話してくれるの嬉しいよ」


以前に慶次殿にお館様のことを話しても女子はそんなに楽しくないだろう、と言われたことがある。そのときはお館様に対して失礼だ、とか、まず女子に話すことはないだろうしもし話してもどう思われてもいい、と思っていた。だが今、慶次殿の言葉を思い出し急に焦った自分。名字殿は楽しくないと思われたか、と考えると熱がさっと冷める感覚がした。だから今名字殿が言った言葉には驚いたのだ。嬉しいと言ってくれたことに。動悸がする。最近彼女といるとしょっちゅう起こってしまうことだ。お館様のことを話すときとは違う種類の熱が上がってくる気がした。


「真田くん、女の子苦手なんだよね?」
「う、苦手と申しますか、あまり関わらない故どうすればよいかわからず……」
「そっか……あのさ」
「何でござろう」
「もし私が話しかけるのとか、嫌だったら言ってくれていいからね」
「え?」
「話すの無理させてないかなと思って、」
「な、そのようなことはありませぬ!」


強く否定した俺に名字殿は目を見開いた。彼女に話しかけられるのを嫌だと思ったことはない。絶対にない。誤解をしておられるのならどうしてもそれを解きたかった。


「ありませぬ! 断じて!」


ぱちぱちと瞬きをする彼女の顔が近い。自分が身を乗り出したせいでいつもより距離が短いことに気づき、謝って急いで離れた。


「よかった。ありがと」


不意に鼓動が速くなる。耳の奥でドキドキドキドキとどうしようもなくうるさい。無意識に左胸の部分の服を掴んでいた手。前にいる笑顔の彼女に、赤いだろう顔で自分も小さく笑い返した。









「Oh! なかなかいい雰囲気じゃねえか!」
「二人きりにしてよかったねえ」
「幸村のヤツ、胸押さえてるけど大丈夫か?」
「相当ドキドキしちゃってるんだよ!」
「おい、いつになったら入るんだ……」
「チャイム鳴ったら!」


友人たちが扉からずっと自分たちを見ていたことは、知るはずもなく。



05



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