空が朱に染まり始めた頃に到着した。今日ここに来たいと言った幸村と手を繋ぎながら緩やかな丘をゆっくりと上がっていく。彼がこんな風にどこかに行きたいと言うのは珍しい。何もないところみたいだけど、幸村と一緒なら楽しくなるだろう。そんな確信がある。軽やかに揺れる彼の一房の髪を見て思わず笑みが零れた。


「ここだ」


辺りも暗くなったころ、この丘の頂上にあたる場所についた。人工の光がなく、今日は月もない。おまけに空が雲に覆われているせいか別段暗く感じる。どんどんと辺りは黒に染まり幸村の顔もはっきりとは確認できなくなってきた。繋いでいた幸村の手を無意識にぎゅっと握る。それに気づいた幸村が、同じように強く握り返してくれた。


「暗いね。ちょっと怖い」
「大丈夫だ。直に明るくなる」
「え? でも今日は月もないし、曇って……」


言いかけたとき上から不意に注いできた光。私を見る幸村の顔が明るく照らされていく。


「わ……」


上を見上げ驚きで声が零れた。空を覆っていた雲が流れて姿を表したのは無数の星たち。黒一色だった空が一瞬にして明るく輝いた。降り注ぐ光は丘と私と幸村を優しく照らす。理由はわからない。でも何故か、涙が流れそうになった。


「これを見せたかったのだ。街中では見れぬであろう?」
「そうだね。すごく、綺麗……」
「どうしてだろうか」
「え?」
「……俺はこれをずっとずっと其方と見たかった気がするのだ」


不思議だな。そう言って微笑む幸村。突如心に流れてきたのは、遥か昔の記憶だった。見開かれた自身の目が写した横顔が、あの頃の彼と重なる。


この戦が終わったら、共に一番綺麗な星を見に行こう。約束だ。


そう言って城を発ち、二度と帰っては来なかった貴方。願いは叶わぬまま、全ては幕を閉じたのだ。どうして今まで気がつかなかったのか。思わず溢れた涙が頬を伝う。遠い昔には成し遂げられなかった約束だった。けれど今、生まれ変わった私たちで、果たされたのだ。


「……私もです、幸村様」


震える小さな声で言った言葉は彼には聞こえなかったようだ。涙には気付かれないようにして彼の肩に頭を預ける。手を繋いだまま私たちはずっと、満天の星空を見上げていた。




こぼれる、きらめきの欠片



企画『星を泳ぐ魚』様へ提出。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -