用事があった他クラスから教室に戻ったら、幸村の机にはたくさんの菓子類が広げられていた。みたらし団子やらクッキーやらプリンやら。教室を出る前にはきっと食べていなかったそれらを、無意識にじっと見つめてしまう。嬉しそうに食べている幸村に声をかけると、丸い黒目が私を見上げた。


「名前」
「これ、どうしたの?」
「トランプで大富豪になった故、約束で皆が一つずつ買ってくれたのだ。だが誰も共に食べてはくださらんかった……」
「なんで?」
「こんな甘い物ばかり食べる気にならないと言われてしまい、一人で食べているのでござる」


そう言って不満そうに眉を寄せるが、食べる口は止まらずしっかりと動いている。幸村の前に腰を下ろしながら苦笑した。幸村は甘い物が好きだ。付き合う前も少し思っていたが、その想像以上だった。食べ始めると、その量はびっくりするほど多い。しっかりと食事をしたあとに食べているのを見たときは、一体どこに収まっているのかと不思議に思った。その細い身体を維持できているのは、その分動いているからなのだろう。私も大概甘党だが、男子で幸村ほどの人は珍しいと思う。幸村の友人たちは彼のようには食さないため、付き合ってはくれなかったようだ。食べる姿を見つめていた私に気づいてか、幸村は少し恥ずかしそうに視線を落とした。


「あ、あまり見られると食べづらい」
「あ、ごめん」
「名前も、甘いものが好きであろう?」
「うん」
「少しで申し訳ないが、食べてくだされ」


先程から不自然に全部が少しずつ残っているのを不思議に思っていたが、私にくれるためだったのか。思わず顔が緩んでしまう。


「ありがとう」
「い、いえ」
「じゃあクッキー食べていい?」
「うむ」
「んー、おいしい」
「良うござった」


笑ったあと、彼はまた喜々として食べ始める。


「ねえ、今度ケーキバイキング行こうよ」
「おお! 良いでござるな」
「私たちなら、きっとたくさん食べれるよね」
「そうだな」
「あと、駅前に新しくできたクレープ屋も行きたい」
「食べ物ばかりでござる」
「私、幸村の食べるとこ見るの好きなんだ」
「そ、そうなのか?」
「うん」


幸村の食べている姿を見るのが好きなのだ。本当に美味しそうに、良い食べっぷりを見せてくれる。一緒に食べていて自分のものも美味しくなるから。もっとたくさん見たいと思うほどだ。幸村の頬がほんのりと赤に染まる。照れ隠しなのか、そそくさとみたらし団子を食べ始める姿に笑いそうになった。そういえばと幸村の一番好きな甘味は団子だったことを思い出す。改めて彼を見ると、口元には琥珀色のタレが付着していた。


「幸村、口の横に付いてるよ」
「む、ここでござるか?」
「反対、こっち」


机に置いてあったティッシュを手にとり、彼の口元を軽く拭う。目を見開いた幸村は、次の瞬間にはぼっと効果音がしそうなほど顔を赤くした。


「な、なな……」
「あ、あれ? そんなびっくりした?」
「び、びっくりする!」


真っ赤に染まる幸村の顔。そんなに照れなくてもいいのに。本当は指で拭おうと思ったが、やめておいて良かったなと心の中で笑う。でもいつかは指で拭っても許してくれるくらいの仲になりたいものだ。私たちを見ていたらしい伊達くんたちにからかわれ、幸村がお菓子を落としたのはそれから数秒後のことである。



甘党の舌にはお似合いね


ネタ「甘党幸村」
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -