「クラス1のイケメンを決める?」


手元の用紙から目線を上げ、名前がそう呟いた。クラスの女子たちは彼女と同じものを楽しそうに眺めている。全て手書きの文字の下には、氏名を書くための空欄が。名前と、紙に目を走らせるかすがを見ながら佐助は笑顔で頷いた。


「このクラスの一番を決めます」
「なんなんだ急に」
「伊達の旦那と前田の旦那と俺様で誰がイケメンかって争ってたんだけど決まんなくて、ならクラスの女子にアンケートしようぜってなったんだよね」
「どれだけくだらない理由なんだ……」
「どうぞ猿飛佐助でよろしく!」


笑顔で手を上げる佐助を冷めた目でかすがが見つめる。そうそう、と付け足しがあるように佐助は口を開いた。


「ちなみにこのクラスは一番イケメン多いらしいぜ」
「ああ、言われてるよね」
「俺様たちの元中はよく言われてるんだー。真田の旦那も長曾我部の旦那もいるしね」
「あ、確かに! かすがもいるし美形ばっかり!」
「いやあ、ありがとうありがとう」
「私には理解できないぞ……」
「かすがは誰選ぶの? ああ、俺様?」
「誰がお前なんか選ぶか」
「うわあ言われると思ったー」
「名前は真田にするんだろう?」
「う、うん」


即答かと思ったかすがたちだったが、返ってきたのはどこか煮え切らない返事だった。悩むように小さく唸る姿に、二人は首を傾げる。


「どうかしたのか?」
「幸村にするつもりだけど……」
「どうした?」
「幸村が一番になったら、やっぱり名前じゃ釣り合わなくない? とか言われそうで……」
「いや、言われないでしょ」
「どうしよう、みんなに嫌われちゃったら……!」
「なんなんだその被害妄想は……」
「私、元親くんにしようかな……」
「それは旦那が知ったら絶対落ち込む!」
「真田がいいなら素直に真田を選べばいいだろう。お前が思うようなことを言う奴は誰もいない」
「う、うん……」
「長曾我部の方がいいというなら別だが」
「ちょ、変なこと言うなよかすが……。旦那は名前ちゃんが選んであげればそれだけで喜ぶよ」
「そうかな?」
「うん」


そう言って佐助は困ったように笑う。名前は机に転がっていたシャーペンを手に取り、薄い黒で真田幸村という文字を走らせた。一時は元親にしようかと迷った名前だったが、やはり最後は幸村らしい。名前の紙を見て、佐助は満足そうな表情を浮かべた。


「はい、お預かりします」
「ありがとう」
「かすがは書いた?」
「今回は特別にお前に入れてやる」
「マジ?」
「謙信様という選択肢がない以上、誰を選んでも同じだからな」
「はは、そうだろうねえ。サンキュー」


笑顔を見せ、手を振りながら佐助は去っていった。紙を回収する後ろ姿を暫く見つめたあと、名前はかすがと目を合わせる。


「誰が一番になるかな?」
「誰だろうな。伊達当たりじゃないか?」
「伊達くんかー」
「どうした?」
「んー、何か言われるとか抜いても、もしも幸村が一番だったらちょっと複雑かもって思って」
「何故だ?」
「だって、それだけたくさんの子が幸村選んだってことだしさ……」
「珍しいな、妬いているのか」
「はは、そうかも」


そう言って名前は苦笑を浮かべる。自分以外に彼が良いと選ぶ者がいることは、嬉しいようなそうでないような微妙な気持ちを名前に与えた。思案する彼女と、遠くから彼女を見ていたらしい幸村の視線が何気なく交わる。だが焦った様子を見せた幸村にすぐに目は逸らされ、名前は何もできなかった。彼女が少し首を傾げた、昼休みのことである。






「佐助」
「どうしたの? 旦那」
「その、だな」
「ん?」
「今日のアンケートで、名前が誰を選んでいたか知っているだろうか?」
「気になるの?」
「す、少しだけ、な」
「へえ〜」
「な、なにをにやついておるのだ」
「旦那、俺様が名前ちゃんたちと話してるのずっと見てたでしょ」
「な……!」
「やっぱりねー。すごいそわそわしてたし。気になってんだなって」
「う、」
「誰だと思う? 名前ちゃんが書いたの」
「……俺ならば、嬉しいのだが」
「どうだったかなー?」
「思い出すのだ佐助! ま、まさか元親殿か……!?」
「違う違う」
「ならば誰なのだ!」
「名前ちゃんが選んだのは旦那だぜ」
「ほ、本当か?」
「逆に旦那選ばない方がびっくりでしょ。名前ちゃん、旦那が一位になっちゃうんじゃないかって言ってたぐらいだよ」
「そ、そうか……!」
「良かったねえ」



呪文も知らない唇で

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