※元親くんとの友情夢



私のクラスには長曾我部くんという人がいる。彼は学校に来ていてもあまり教室にいることがないため、高校に入って暫くは本人の顔を知らなかった。隣の席であるにも関わらずだ。そんなある日、私は初めて彼をちゃんと見る機会があった。銀色の髪に左目には眼帯。そして既に着崩された学ランと光るピアス、首から下がるシルバーのアクセサリー。とにかく衝撃を受けた。高校に入ってからまだ日が浅いのにあまり出席していないことから不良っぽい人なのだろうかとは思っていたが、まさにその通りだったのだ。


「長曾我部くんって、かすがの元中なんだよね?」
「ああ、そうだ」
「……どんな人?」
「なんだ、長曾我部が恐いのか?」
「いや……うん」
「あのナリだからな。だが悪い奴ではないぞ」


かすがが悪い奴じゃないと言うことは、たぶんかなり良い人だということだ。現に殆ど授業に出てないにも関わらず、彼にはクラスに多くの友達がいる。ただ恐い人だったらあんな風にみんなと打ち解けることはできないだろう。失礼ながら最初はそんな風に思っていなかったが、かすがの話を聞いたり他のみんなとの関わりを見ているうちに、そう思い始めたのだ。


ある日のある時限、久しぶりに長曾我部くんが授業に出席していた。私は久しぶりに隣の席が埋まっていること、さらにそれが長曾我部くんであることになんだか落ち着かないでいる。そして当の長曾我部くんは今、トランプタワーを作ることに勤しんでいた。顔がすごく真剣だ。隠すために教科書を立てているようだが、完成間近のタワーはもうそこからはみ出してしまっている。私は彼がトランプを乗せる度にはらはらしていた。もう黒板より隣に目が行ってしまっていたそんなとき。長曾我部くんが最後のトランプを置いたと同時に、タワーがバラバラと崩れてしまったのだ。


「「あ!」」


長曾我部くんと思わず発してしまった私の声が重なる。し、しまった……!そう思い私は急いで前を向いた。クラスのみんなも何事かというように私たちの方に視線を向けている。そして隣の長曾我部くんも恐らく私を見ていた。視線を感じたがそっちを向けるわけもなく、私は何事もなかったかのように授業に集中するように努める。そして長曾我部くんは再びトランプタワー作りを始め、授業終了五分前にそれは見事完成していた。


それから長曾我部くんは授業に出る度に何かしら板書以外のことで手を動かしていた。あるときは絶対直すのは無理だろうと思うほどバラバラに分解したボールペンをいとも簡単に元に戻したり、またあるときはプリントでとても綺麗な鶴を折っていたり、またまたあるときはノートにすごく細かい迷路を描いていたり。授業中の彼の行動を見るのが何時の間にか私の楽しみになっていた。


「長曾我部くんてすごく器用な人なんだね」
「そういえばそうだったな。確か中学のとき技術の授業で作った作品が賞をとっていた」
「すご!」
「それよりお前、授業中長曾我部の方を見過ぎじゃないか?」
「え、そ、そうかな?」
「私の周囲の席の男子が名前は長曾我部が好きなのではないかと噂していたぞ」
「え!?」
「そ、そうなのか!?」
「いや違うよ! 長曾我部くんのすることが気になってつい見ちゃうんだよ!」
「なんだ、そうか……。でもさすがに長曾我部も気づいているんじゃないのか。あれだけ見られていれば」
「そ、そうかな……。でも何も言われないし……。いやでもあんま見るのはやめた方がいいかな……」
「それならいっそ話しかけてみればどうだ?」
「そ、それはまだちょっと……」
「長曾我部なら話しかけてよかったと思えるはずだぞ。お前が以前私にそう言ってくれたようにな」


かすがが控え目に笑う。あのときのことを改めて言われるとなんだか気恥ずかしかった。でも本当にそう思ったのだ。自分で言っておきながら照れるかすがは相変わらず可愛いかった。


その日の昼休み、渡り廊下からふと下を見ると、長曾我部くんが厳つい見た目の男子たちと裏庭に溜まっていた。明らかに改造されたど派手なバイクを囲んでなにやら遊んでいる。す、すごいバイクだな……。遠目ではっきりわからないが、長曾我部くんも楽しそうに笑っているように見えた。……やっぱり話しかけてみようかな。きっと彼はいい人だ。仲良くなってみたいかも。


「結局話しかけられなかった……」
「まだこれからチャンスはあるじゃないか」
「うん、そうだよね……あれ? なんか人集まってる」


放課後、昇降口に向かってかすがと歩いていると、廊下に何やら人集りができていた。近づいてみると、中心には生活指導の先生と長曾我部くん、そして割れた窓ガラスが。


「だーかーらー! 俺は昼休みにはここにいなかったっつってんだろ」
「はいはい、どうせお前だろ。前も窓割ったことあったしな」
「ま、前は確かにそうだったけどよ、今回は俺じゃねえって!」
「わかったから、取り敢えず職員室来な。俺もこんなことしたくねえが、普段のお前の生活態度についても話さなきゃなんないからな」


長曾我部くんの訴えも虚しく、先生は人集りを抜け職員室に向かって歩き出す。確かに長曾我部くんは昼休みに此処にはいなかったはずだ。この場から離れた裏庭にいたのを確かに見た。私が昼に此処を通ったときには窓は割れていなかったし、そのあと裏庭で長曾我部くんを見たのはもう昼休みも終盤だったのだ。長曾我部くんは自分は違うと言っているが、先生は聞き流してしまってる。長曾我部くんじゃないのに。


「あ、あの、先生!」


かすがが私の名前を呼ぶ声を後ろで聞きながら、人集りから前に出た。私に他のみんなと先生、そして長曾我部くんの視線が集まる。緊張で少しどきどきしてしまう。


「長曾我部くんは、昼休みここにはいませんでした。長曾我部くんが裏庭にいるのを見たんです。その前には窓は割れてなかったし、もう昼休みも終わる時間だったから……だ、だから、窓割ったのは長曾我部くんじゃないです、よ」
「私も長曾我部が昼に裏庭にいるのを見ました」
「か、かすが……」
「此処から裏庭は遠いので移動だけで時間がかかりますから、長曾我部ではないはずです」


かすがが助け舟を出してくれた。そのおかげで自分の発言に自信がつく。先生は瞬きを繰り返したあと、バツが悪そうに頭を掻いた。


「そ、そうなのか?」
「はい」
「お前らがそう言うなら、本当なんだな……。悪かった長曾我部、疑っちまって……」
「あ、いや……」
「こんなあとで言い辛いが……バイク登校は校則違反だぞ。とにかく職員室には来てくれ」
「げっ! まじかよ!」


窓ガラスの疑惑は晴れたらしい。長曾我部くんは結局職員室に行くことになってしまったけれど。かすがと顔を見合わせ笑い合う。先生に引っ張られながら歩き始めていた長曾我部くんだったが、不意にこちらを振り返った。


「ありがとな!」


大きく手を上げてそう言った長曾我部くんに、咄嗟に手を振り返した。


翌日、早く起きれたのでいつもより早く学校に行った。教室に到着し自分が一番だったことに感動しながら席に着く。ごそごそとかばんを漁っていると机に何かが置かれる音がした。視線を向けるとそこにはシュークリームが。更に顔を上げると、何時の間にか前の席には長曾我部くんが座っていた。思わず驚きで肩が跳ねる。


「ははっ、そんなビビんなって」
「ご、ごめん、びっくりして」
「これ、昨日の礼だ」
「え……?」
「アンタが昨日あの場で言ってくれなかったら、俺がやったってことにされたままだった。助かったぜ」
「や、そんな……たまたま昼休みに裏庭にいる長曾我部くん見かけたからさ。みんなの前で言うのちょっとためらったんだけど、言えてよかった」
「はは、ありがとよ」
「あの、これもらっていいの……?」
「おう。アンタ甘いの好きなんじゃねえかと思って」


よく菓子食べてるの見るからよ、と付け足した長曾我部くん。そんなに食べてたかな、となんだか恥ずかしくなる。お礼なんかいいのに、このシュークリームもわざわざ買ってきてくれたのか。やっぱりいい人なんだな。初めてじっくりと見る長曾我部くんの顔はとても整っていた。


「授業中、俺変なことしてるか?」
「え?」
「アンタにすげえ見られてるからよ」
「え!き、気づいてたの?」
「そりゃあなあ。かなり前にトランプタワー造ったときからだな?」
「すごい器用だな〜と思って。なんか見てて楽しかったから……」
「そうか。暇つぶしについああいうことしたくなっちまってなあ」
「そっかあ」
「アンタに話しかけようかと思ったこともあったんだけど、ビビられてるみてえだったからよ」
「さ、最初はちょっと、長曾我部くんのこと恐かったんだ。でも今はそんなことないよ! 私も話しかけようと思ってた!」
「ははっ、ありがとよ。じゃあ俺たち今日から友達だな!元親でいいぜ。よろしくな名前!」


白い歯を見せて快活な笑みを見せた長曾我部くん。そんな彼は思わず返答が遅れるほどかっこよくて、私は二度目の衝撃を受けたのだった。



******



「これが私と元親くんの仲良くなったきっかけかな〜」
「そうだったんだねえ」
「あのときから元親くんは私の推しメンなんだ」
「そっかあ。まあ元親はすごくいい奴だしな! 俺もわかるよ!」
「だよね!」
「ところで名前ちゃん」
「ん?」
「元親の話はじめたときから幸村がすごいこっち見てるよ」
「え」



彼とは良いお友達です


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