「ただいまー!」
「ただいま帰り申した!」


今日は珍しく朝から元就以外の六人で出かけて、彼女の代わりに買い物をしてきた。おかえりとでむかえる彼女を想像していたのだが、家に入っても沙季が来ない。乱雑に靴を脱いで上がっていく慶次や元親に続き、皆も中に入る。


「沙季いねえのか?」
「この時間なら帰ってるはずだが」
「今日、塾もバイトもないって言ってたよな」
「沙季ちゃーん」


買い物袋を手にぶら下げた男たちがぞろぞろとリビングに入っていく。


「静かにしろ」


彼らを出迎えたのは沙季ではなく、椅子に座り読書する元就だった。朝から彼も出かけていたが、既に戻っていたらしい。


「沙季は?」


元親の問いに、元就はソファーの背に視線だけ向けた。ソファーを見ると、制服姿で寝転がる沙季が。いないのかと思ったら、眠っていたのか。


「あらら、寝てる」
「またこの娘はこんなとこで……」


彼女を覆う薄手のブランケットは、元就が掛けたものだった。


「可愛い寝顔」


ソファーの横に腰を降ろした慶次が笑みを浮かべる。買った物の片付けもおわり、リビングに落ち着いていた皆も彼の言葉を聞いていた。


「この娘のおかげで、俺たちは生きていられるわけだよね」
「ああ」
「沙季殿が助けてくださらねば、死に絶えていたやもしれませぬ」
「そうだな」


椅子や床などそれぞれに座る。彼女のあどけない寝顔は可愛らしい。慶次の大きな手が、彼女の顔にかかるそろりとどけた。


「しかも楽しく過ごせるようにしてくれてる」
「ここに置いてもらえるだけで、充分過ぎるっつうのにな」
「この時代で降り立ったのが、沙季殿のところだったことに、感謝せずにはいられませぬ」


幸村の言葉に他の者たちも頷く。沙季が初対面の彼らを住まわすことを決めたのは、恐らくそのときの咄嗟の判断だったのだと彼らは思う。何も知らない彼らを追い出すのは可哀想だし、行く宛がないのならじゃあ一緒に暮らそうか、ぐらいの気持ちだったのかもしれない。彼女はそういう人物なのだ。もう少し危機感を持つべきだと今は思うが、彼女がそうであるおかげで自分たちはここにいられるのだ。しっかりしてるようでしてなくて、周りを見ていないようなのに人の変化に気付く。基本怒らず、受け入れてくれる、そんな彼女のところに彼らは来た。


「よかったな」


政宗が呟く。この時代の何億という人々の中で、彼女のところに自分たちが来たのは、只の偶然なのだろうか。それなら自分たちはとても幸運だと幸村は言った。


「お?」


寝転がっている沙季が不意に小さく身を捩る。それに気づいた慶次は彼女に視線を戻した。


「起きるかな?」


目を覚ましそうだと起こさず沙季を見守る。ん、と声を漏らしてまた身をよじった。だがそうするだけで目を覚まさない。彼女の眉間には皺が刻まれていく。


「沙季?」


慶次が声をかけた。身を捩りゆっくり首を横に振る。うなされているのかと思っている間にも、その動作は大きくなっていった。荒くなる呼吸。ただうなされてるにしては度が酷い。様子が、おかしい。


「沙季! どうしたんだ!?」


沙季の身体を慶次が揺する。


「待って!!」


突然悲鳴のような叫び声を上げて、勢いよく起こされた彼女の上半身。荒い呼吸を繰り返す沙季を見て、彼らは驚きを隠さなかった。


「沙季……?」


誰かの声に彼女がハッとしたように皆を見た。


「あ……」
「沙季、どうしたんだ……?」
「ご、ごめん、何でもない……」


今までの顔を隠して笑顔を作ろうとする。だがそれは全く上手くいっていない。彼らは呆然と沙季を見つめる。


「なんでも、な……」


作りかけだった彼女の笑顔が、彼らに向けられたまま固まった。目を再び見開き、そのあと泣きそうにくしゃくしゃに歪められた顔。そして、涙が溢れた。


「う、あ、ああ……!」


ひたすら目を円くする彼らの隣で沙季は顔を覆い、背を丸める。悲痛な泣き声が静かな部屋に響いた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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