主が右目に痛みを催していた日の夜、二階から突然聞こえてきた怒鳴り声はその政宗様のものだった。一階にいた他の奴らは当然上に駆けつけようとする。二階に沙季がいることを知っていたからだろう。政宗様が沙季に何かしたのではないかと思うのも当然だ。あのとき理由も言わず道を塞いだ俺に、奴らが怒りをむけたのも仕方なかっただろう。どく気がないなら無理にでも退かせると長曾我部や真田が言ってきたときには、上も静かになっていて。一階に降りてきた沙季に奴らは色々と尋ねていたが、沙季は、政宗は関係ない、何でもないよと言うだけだった。


「あの日アイツらが上に行くのを止めたらしいな」
「ご存知でしたか」
「全員に聞かれちまったからな。沙季に何したんだって」
「左様で」
「何故沙季を俺のところによこした? お前だったら止めることもできたはずだ」


細められた左目に見られ、僅かに目を伏せる。あの日の朝、俺に政宗様の体調が悪いんじゃないかと沙季が聞いてきたときには驚いた。きっと誰も気づいていないと思っていたのだ。元気がない気がすると言ってきた沙季に、あの場は大丈夫だと言った。だが夜にも政宗様を気にしている様子だったアイツに、本人に聞いてみればいいと言ったのは俺だ。まさか眼帯を外しているときに、部屋に入ってしまうとは思っていなかったが。


「お前がなんか言ったんだろ?」
「向う判断をしたのは沙季ですぞ」
「アイツらを止めたのは?」
「奴らにその眼帯の下を見せるのは、貴方様も抵抗があるのではと思ったからにございます」
「沙季にはよかったのか」
「いえ、沙季も見ることになるとは思っておりませんでした」
「Ha. そうかよ」


窓枠に腕を起き、外を見る横顔を見つめた。


「沙季に、眼帯の下を見せて良かったと思いましたか?」
「んなの、見られねえ方がよかったに決まってんだろ」
「その割には上機嫌に見えますが」
「どうだろうな」


やはり嬉しそうに見える。口には笑みも浮かんでいた。庭から不意に聞こえてきた声に、政宗様が窓から下を覗き込む。この声は真田と前田と、沙季だろう。何を騒いでいるのかわからないが随分楽しそうだ。


「俺も行ってくる」
「庭に、ですか?」
「ああ。風来坊の野郎、また沙季に馴れ馴れしく触りやがって」
「はあ」
「じゃあな」


ずかずかと部屋を出て行く政宗様を見送る。前からまさかと思っていたことが、それはあの日に俺の中で確信に変わった。立ち上がり窓から庭を覗く。そこには政宗様の姿もあった。


相手はこの時代の娘。報われる恋情ではないだろう。だが自分にそれを咎める権利はない。ならばここにいる間だけでも。沙季と話す主の表情は、どこか清々しく見えた。





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