「やっぱりか……」


電源を落としたパソコンを閉じて一人呟く。熱を持ったそれに意味もなく手を滑らせた。皆と過ごしていて、わたしは思ったことがある。


戦国武将はあんなにイケメン揃いだったのかとか、あんな肌を見せている服で戦うんだとか、最初から自分の予想とは違うことに驚いてはいた。一緒に過ごすことになり、彼らについて知っておいたほうが良いかと思って調べさせてもらったのは少し前だ。そのときから少し違和感は感じていた。調べてみて、確かなものになったその違和感。伊達政宗が英語を話すことも、刀を六本も使うことも、真田幸村が武田信玄と師弟関係であることも、何も記されていなかったのだ。これぐらいは情報として書いているだろうと思ったのに、どう調べてもどこにも書いていなかった。でも彼らに当てはまっていることも確かにあって、書いていないことは資料が残されていないのかと思うようにしたのだが、先日何となく調べていて気づいてしまったのだ。


「生年が違うのは、流石におかしいよなあ……」


そこまで年齢に違いのないはずの彼らの生年はほぼ同じはずなのに、大きく違いがあるのだ。政宗と毛利さんだけでも、七十年も違う。彼らが西暦何年から来たのかはわからないが、あの姿で二人が顔を合わせているのは明らかにおかしい。他の皆にしても同じである。資料が全て間違っているとは思えない。


この世には自分が生きているのとは違う、もう一つの現実というものがあるらしい。ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界。所謂、パラレルワールドである。


「で、俺たちがそのparallel worldから来たって言いてえのか」


政宗の言葉に頷いた。彼らに言おうかどうか、すごく迷った。今いるこことは、違う世界で生きている人。この世界で伝えられている私が学んだ戦国武将と彼らは違う。それらを伝えて、傷つけてしまうんじゃないかと思った。だが、知っておいてもらったほうがいいのではないかという思いが強かったのだ。歴史では真田幸村は武田信玄の弟子じゃないと伝えたとき、幸村が動揺していたけれど、結局全て話した。話している最中、皆それぞれ驚愕していたが今、は黙っている。どう、思っただろうか。


「良うござった……!」
「え?」
「某らがその、ぱ、ぱられら……」
「パラレルワールドね、旦那」
「ぱりれるわーるどの者ということは、某がお館様の弟子であるのは、そこでは当然だということでござる!」
「まあ、そうなるな」
「やりましたぞ、お館様!」


喜ぶ幸村に佐助が良かったねと声をかけている。そうなんだ、そんな世界があるんだな、と話している皆はあまりにも普段通りだ。


「沙季、どうした?」
「あ、いや……、嫌な気分にならなかったのかなと思って」
「え?」
「パラレルワールドから来たんじゃないかなんて、信じられないだろうし、言われたくなかったかなって……」
「なんで?」
「別に気にしねえよな。そうかって感じだ」
「そ、そうなの……?」
「先の世に来るという有り得ぬことが既に起こっておるのだ。我らが別世界から来ているとしても、可笑しなことでもあるまい」
「そう言うこった」
「それに、俺らがparallel worldに生きてるっつうことは、この世界の歴史とは違えってことだ」
「そうですな」
「ならこの世界で織田信長や豊臣秀吉が取った天下を、あっちの世界では俺が取るっつうことだろ?」


You see? と言って笑う政宗。思わず、間抜けな声で聞き返す。


「誰が天下統一したか、知ってたの?」
「ああ」
「みんな、テレビで見ちゃったんだ」
「俺たちが傷つかないように隠してくれてたのに、ごめんな」
「う、ううん、それはいいんだけど、」
「最初知ったときは確かに衝撃を受け申した。だが某らが別の世界の者ならば、あちらはまた違う結果になるでしょう」
「うん」
「それに、某らが仮に今いるこの世界の自身だとしても、沙季殿が“頑張れる”とおっしゃられた故、某は心意気を保つことができまする」
「それは、よかった」


幸村の言葉になんだか照れくさくなる。


「今の話も、俺たちに話すか悩んでたんだろ?」
「沙季は優しいからね」
「いやいや、全然……」
「話してくれて、良かったぜ」
「ありがとうござりました」


あの言葉はノリで言ってしまったところがあったし、まさかこんなことを言われるなんて思っていなかった。予想外だ。意識したら顔に集まってきた熱。待って、なんかすごい恥ずかしい。思わず両手で顔を隠したわたしに、誰かがびっくりしたような声を上げる。叩いてしまった頬が痛かった。


「沙季が照れてる!」
「It is rare!」
「はは! 珍しいな」
「み、見ないで下さい……」


恥ずかしい。けど、彼らが言ってくれたことがたしかに嬉しかったのだ。彼らがパラレルワールドの人間だとしても、そんなことは関係ないんだなと改めて思う。彼らは今、確かにこの世界の、この場にいるのだ。


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