一言で言うと大変だった。何がって、あのあと四人と出かけたことがである。


どこに行きたいかと聞いたところ人が多い場所は嫌だという意見が出たので、散歩のように近所を歩くことにした。ショッピングモールのようにたくさん人が集まる場所ではないので、はぐれたりする心配もない予定だったのだが。公園に足を踏み入れた直後真田さんがいなくなったと思ったら、彼は離れた場所で少年たちがサッカーをしている様子を食い入るように見つめていたり、慶次くんと一緒に遊具にびっくりしていたり、歩いている途中に慶次くんがいつの間にかいなくなって、慌てて探したら道行くお年寄りと談笑していたり。スーパーでは驚きに声を上げ続けるお二人に説明をしながら、もうはぐれないようにとしっかり見ていたつもりだったが、結局二人ともと再びはぐれてしまったのだ。少しして無事見つかり、後帰宅した。


「おいおい。疲れてんのか、小十郎」
「いえ、貴方様が無茶をなさるときに比べれば、軽いものにございますので」
「Oh. ……そうきたか」
「ごめん、沙季ちゃん。こうなる気はしてたんだけど……」
「い、いえ」
「楽しかったねえ!」
「また行きとうござる!」


家に帰ったときには、二人を見張りいなくなる度に叱ってくれていた片倉さん、そして毛利さんも、少し疲れた顔をしていた。でもまあ、楽しんでもらえたならよかったかな。


携帯を見ると友人から、今日どうしたの?大丈夫?という内容のメールが届いていた。絵文字からも心配をしてくれているのがよくわかる。そういえば先生にしか連絡をしてなかったな。返信をしていたとき隣から感じた視線。それは元親くんと慶次くんのものだった。


「どうしました?」
「それケイタイってやつだよな?」
「そうですよ」
「遠くにいる奴にも連絡がとれるっていう……」
「はい」
「すげえな」
「使ってみます?」
「いいのか!」
「俺も!」
「はい。あ、ちょっと待ってくださいね」


作りかけだったメールを完成させ送信。どうぞ、とそれを手渡すと興味深そうに触り始めた。彼らが持つと携帯が小さく見える。


「かめらって何だい?」
「写真を取れるんですよ。あ、写真っていうのは、風景とか人をそのまま写すものです、かね。ここを押すと撮れます」
「おお! 使ってみてもいいかい?」
「いいですよ」
「じゃあ沙季撮らしてくれよ」
「それはちょっと……」
「何でだ? いいじゃねえか」
「な、なんか恥ずかしいから嫌です」
「じゃあ俺撮ってよ!」


わたしに向ける携帯を慶次くんに移動させた元親くん。撮った写真を見て二人は笑っている。あとはリビングや庭で鍛練をする真田さんを撮っていた。他には電話をしてみたいという元親くんに携帯を持って二階に行ってもらい、慶次くんが家電からかけて家の中で二人で通話してた。二人とも感動の声を上げていた。


「楽しかったぜ。ありがとよ」
「よかったです」


八重歯を見せて笑う元親くんと慶次くんにわたしも釣られて笑う。伸ばした手にポンと携帯が置かれた。


「なあ、沙季」
「はい」
「敬語、やめてくれていいぜ?」
「え」
「そんなに気ィ使わなくていい」
「……はい」
「嫌なのか?」
「いえ、でも皆さんのように身分の高い方と敬語を使わずに話すのは、ちょっと……」
「………」
「ですから、」
「他の奴らは知らねえが、俺らは気にしねえよ。なあ?」
「うん、そうだよ」
「だから、いいって」


まっすぐわたしを見てそう言う元親くんたち。だがわたしは渋りなかなか頷けない。


「じゃあ身分の高い俺からの命令だ。敬語使うなよ」
「え!」
「あと元親って呼べ」
「ええ……!」
「命令だからな」


そう言って悪戯が成功した子供のように笑う。身分が高いと言ったのは確かに自分だ。や、やられた……。


「……わかりました」
「敬語になってるよ」
「わ、わかった、よ」
「できるじゃねえか。試しに元親って呼んでみな」
「元親……くん」
「おいおい、違ぇだろ?」
「……元親」


呼んではみたが若干の申し訳なさがまだ残る。ちらりと彼を見ると、少し驚いたような変な顔をしてた。


「やっぱりまずかったですか?」
「いや、ちょっとびっくりしただけだ! てかまた敬語になってるぞ」
「す、すいませ……、あ、ご、ごめん」
「沙季、俺も呼んでみてよ」


慶次、と呼ぶと彼は満足そうににっこりと笑う。この調子でそのあとも暫く三人で騒いでいたら、戻ってきた真田さんに不思議そうな顔で見られてしまった。

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