彼らがやって来て三日目の朝。先ほど階段の下で会った毛利さんには挨拶を返してはもらえなかった。昨日に続き連敗である。彼らがきてまだ三日だ。疑いをとってもらえなくても仕方ないか。


「Ah……,Good morning」
「おはよう」


台所で朝食は何にしようかと冷蔵庫の中を覗いていたとき、背後から響いた低い声。振り返るとそこにいたのは伊達さんと片倉さんだった。昨日の朝のこともあったため、まさかお二人から挨拶をされるとは思っていなかったわたし。


「お、おはようございます」


大分どもってしまったわたしの挨拶のあと、二人は台所から去っていった。わたしに言うために、わざわざここに来てくれたのだろうか。


「よかったな」


そう言って台所に顔を覗かせたのは、ニッと笑った元親くん。彼の後ろで慶次くんも笑顔を見せる。笑いながら勢いよく頷いた。料理は猿飛さんが手伝ってくれた。大丈夫ですよと止めようとしたが、いいからいいから、と手を進めていく彼にそれ以上は言えず。結局片付けまで手伝ってもらった。




学校へ連絡を終えた携帯を閉じる。体調不良だと嘘をついてしまったがやむを得ない。


「今日はどうしようか……」


そういえば、伊達さん、猿飛さん、元親くん以外の四人はまだ一度も外に出ていないことを思い出した。


「ですから、出かけてみますか?」
「行く行く!」
「是非!」


元気良い返事をしてくれた真田さんと慶次くんに「じゃあ行きましょうか」と言うと、見るからに喜んでくれた。


「片倉さんと毛利さんは……」
「一度行っておきたいな」
「此奴らと共に行くというのは気に食わぬが……やむを得ぬ」


四人とも行くことで決定した。どこに行こう。昨日と同じようにどこか買い物に行こうか。


「なあ」
「はい」
「俺たちが生きてる時代のことが、今は歴史として残ってるんだよな?」
「そうですね」
「誰が天下を取ったかも、わかるってことか?」


元親くんのこの問を聞いた全体の雰囲気、そして伊達さんと真田さんの顔付きが急に変わった。二人に詰め寄られ思わず後ずさる。


「誰が取ったんだ」
「え、あの、」
「無論お館様にござろう!?」
「お、おや……?」
「俺に決まってんだろうが!」
「お館様以外にはありえませぬ!」
「政宗様以外にありえねえの間違いだろ、真田」
「いやいや、それはないんじゃない?」
「俺が聞いたんだぜ?」
「俺もちょっと気になる、かな」
「沖田殿!」
「誰なんだ!」


騒ぐ彼らを茫然と見つめていたわたしにバッと視線が集まった。これは、どうすればいいんだろう。史実では、天下を取ったのはこの中の誰にも当てはまらない。本当のことを言うべきなのだろうか。


「……そ、それは、言えません」
「な、何故でござるか!?」
「アンタ知ってるんだろ」
「結果を聞いてショックを、衝撃を受ける人がいますよね」
「まあ、そうだね」
「わたしは、あちらの時代に帰った皆さんが結果をわかっていて戦うよりも、何も知らない方が頑張れるっていうか、いいと思うんです」
「………」
「ですから敢えて知らなくてもいい気がして……あの、勝手な判断で……すみません」


何だか上手くまとまらなかった。黙してしまった彼らに何と言えばいいかを迷う。もし彼らの誰かが天下を取ったら、今の歴史は変わってしまうのかもしれない。それは今よりいい結果をもたらすかもしれないし、逆に悪くなるかもしれなくて、それには現実味はないし漠然とした不安を感じる。そう思うと伝えてもいいかもしれないとも思った。だが天下を取ることが目的に生きる彼らに事実を伝えてしまうのは、余りにも酷な気がしたのだ。


「そうかもな」
「え?」
「現代の歴史で他の奴が天下を取ってたとしても、そんなの変えりゃいい。天下を取るのはこの俺だ」
「その通りで」
「日ノ本を治めるはお館様! 某も精進せねば!」
「その意気だぜ、旦那」


いいから教えろ!と怒られるかと身構えたが、言われたのは予想とは全く違う言葉だった。瞬きを繰り返しながら彼らを見ていると、熱く話していた真田さんが急にわたしに向き直った。彼の整った眉は少し下がっている。


「沖田殿には申し訳ないことを致した。あのように聞き出そうと……」
「いえ、そんな」
「にもかかわらず、某らを奮い立たせようと言って下さったそのお言葉。感動いたしました!」
「は、はあ……」
「更なる精進あるのみと気づき申した! 感謝いたす」
「それは、良かったです」


輝く目をしながらずいずいと近づいてくる真田さんにびっくりして、何だか変なことを口走ってしまいそうになった。


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