伊達さんに宣告した通り今日の晩御飯は洋食。カレーにした。現代の定番メニューだ。気に入って、もらえるだろうか。


「うめえ!」
「美味にござる!」
「食べたことのない味だな」
「美味い美味い!」


辛過ぎないようにと無難に中辛にしてみたが口に合ったみたいでよかった。彼らが食べる前にちゃんと毒味もしたし、安心して食べてもらえるだろう。


「どうですか?」
「悪くねえ」


黙って手を動かしていた伊達さんに少しハラハラしながら尋ねる。返ってきた感想にほっとした。おかわりと言ってくれた人が多くて、たくさん作ったつもりのカレーは全てなくなった。明日の昼はカレーうどんにでもしようと思っていたができなくなってしまった。明日の昼食は何にしようか。夕食のあとは昨日と同じように順番に風呂に入ってもらう。食器を片付けたり、元親くんにいじられていたドライヤーが急に動かなくなって焦ったりということがあったが、九時前にはわたし以外の全員が風呂を入り終え一旦落ち着いた。今は全員でバラエティ番組を鑑賞中。見ているといってもわからない言葉が多いだろう彼らにとっては、映像を眺めているといったほうがいいかもしれない。それでも今のはどうだ、こいつはどうだ、とテレビを見ながら興奮気味に話している様子は少し楽しそうに見えた。


「沖田、ちょっといいか」


尋ねられれば言葉の説明をしながら彼らと一緒にテレビを見ていたわたしに声をかけたのは片倉さんだった。真面目な話だというのは彼の顔を見てすぐにわかる。不意にプツリとテレビの電源が落ちる。見渡すとそうしたのは伊達さんだった。


「あ! 何で消すんだよ!」
「俺らまだ見て、」
「Shut up」


そう言って伊達さんは片倉さんに目を向ける。追うようにして他の彼らの視線も片倉さんに注がれた。


「聞きたいことがある」
「は、はい」
「お前らも知っておくべきことを沖田には問うつもりだ。聞いておいてほしい」


彼らを見渡した後片倉さんは一旦目を閉じた。


「お前は普段は何をしてるんだ?」
「えっと、学生なので、学校に通ってます。あとバイトと、塾に行ってます」
「がっこう? バイト、とは?」


そうだ、彼らの時代には学校ももちろんバイトもないんだ。そのことに気付き、簡単にだが学校の説明を始めた。小学校、中学校、高校、大学を順に説明していって、自分は高校に通っていることを話す。バイトについても同じように説明した。


「今日はその学校もバイトもなかったのか?」
「昨日と今日は休日だったので、学校もお休みです。バイトは休みをもらいました。学校は明日はありますけど、皆さんだけではまだわからないこともあると思うんで、一応休もうと思います」
「そうか……悪いな」
「わたしが勝手にすることなので、気にしないで下さい」


自分たちではまだ心許ないことは彼らが一番理解しているようだった。そのあと片倉さんに再び名前を呼ばれる。


「お前はこの家に一人で住んでるのか?」
「はい」
「家族とは、別で暮らしてるということか?」


尋ねられた瞬間、ぴくりと自分の肩が跳ねた。いつかは聞かれると思っていた質問だった。


「両親は、七年前に亡くなりました」


そう言った途端、部屋が更に静まり返ったように思った。片倉さんを見ると、驚いたような顔をしている。


「悪い、亡くなってはいないと思っていた」
「交通事故にあって」
「交通事故?」
「車同士の事故のことです」
「……なんと」


親が亡くなっているとは、意外にも思われていなかったらしい。家族のことについては何も話していなかったので、そう思われていても仕方がなかったが。室内の空気が、重くなってしまった気がした。誰も何も喋らない。特に真田さんや前田さんは悲痛そうな表情を浮かべていて、なんとも言えない気持ちになる。


「あの、でも兄弟がいるんです」
「そうなのかい?」
「はい。七つ上の、双子の兄がいます」
「ふたご……」
「兄貴はどうしてるんだ?」
「二年ぐらい前から、外国で働いてるんです」
「それからお前はずっと一人で暮らしてるのか」
「はい」
「………」
「寂しく、ねえのか」


そう尋ねてきたのは今まで黙っていた伊達さんだった。無意識に彼を見る。


「兄は長期休暇には帰ってきてくれるんですよ。だから、寂しくはないです」


そう言うと伊達さんは「そうか」とだけ呟いた。寂しくない。これは本当だ。
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