買ったものを冷蔵庫に閉まっていく。入りきらないかもと思ったが全ての食材はちゃんと中に収まった。帰り道、留守番を頼んだ方たちが心配だったが、それも杞憂に終わって一安心だ。共に外出した三人が今はリビングで四人に外の話をしている。わいわいと話す様子は、彼らが敵同士だということを私に忘れさせそうだった。


「沖田殿!」
「はい!」


台所から彼らを眺めていると突然その場所から走ってきたのは真田さん。大きな声で名前を呼ばれ、無駄に大きな声で返事をしてしまう。


「団子があると聞いたのでござるが」
「ありますよ」


出すのを忘れてた。台所に置いていたそれを掴み真田さんに差し出す。


「これは食しても……」
「どうぞ」
「忝のうござる!」


元気よく礼を言われる。真田さんがパックを開けようとしていたが上手くいかないようだったので、わたしが代わりに開けた。真田さんは団子を頬張り嬉しそうな顔をする。買ってきた甲斐があったものだ。甘い匂いが室内に広がりそれに気づいたらしい他の方たちもやって来た。


「美味そうだなあ」
「俺たちも食べていいか?」
「もちろんです」
「旦那、全員で食べるんだからね」
「何本目だ、真田幸村」
「む、ぐむっ!」
「何が言いたいのかわかんねえよ」
「だ、大丈夫ですか?」
「落ち着いて食べて!」


テーブルを囲みお昼前の団子タイムになる。「それ俺の分だよ!」「テメェは食い過ぎだ」「俺その味食べてねえ!」などの言葉が飛び交う。たくさん買ってきたつもりだったが、少なかったかもしれないなあと苦笑が漏れた。ふと窓の方を見ると、視界に入ったのは一人掛けソファに腰を沈める毛利さん。真剣な表情でニュースを映すテレビを見つめている。先程の外の話には興味深そうに耳を傾けていたが、団子には興味がないようだった。


「毛利さん、食べませんか?」


近づき声をかけると毛利さんは目だけをわたしに向けた。だがそれも一瞬で、すぐに視線はテレビに戻される。


「気安く我に話しかけるな」

そんなに大きくないのに響く彼の声は、さっきまで騒々しかった彼らまで静かにさせる。再びわたしに向けられた目は冷ややかで、なにも返せなかった。そうしている間に毛利さんは立ち上がりわたしの横を通り過ぎる。あ、と口の中だけで呟いて彼を振り返ったが何も言えなかった。


「何だその言い方」


元親くんの声が静けさを破る。覆われていない右目が毛利さんを睨みつける。リビングを出ようとしていた毛利さんがピタリと足を止めた。


「アンタの為に声かけてくれたんだろうが」
「貴様には関係のないことぞ。我はこの女に身の程を知れと教えただけよ」
「テメェ……」
「も、元親くん」


なんだか殴りかかりそうな勢いの彼の名を呼ぶと、元親くんは毛利さんに向かって動かそうとしていた足を止めた。


「だ、大丈夫ですから」


彼はそこから足を進めようとはしなかった。元親くんのその様子を見た毛利さんは、短く鼻で笑ってリビングを出ていく。バタン、というドアの閉まる音だけが静かな空間に響いた。


「すみません、私が怒らしてしまったみたいで……」


毛利さんの部屋の扉が閉まったのだろう音がリビングに小さく聞こえた。


「アンタが謝る必要ねえよ」


悪かったな、と言う元親くんに更に罪悪感は募った。他の方も気を使ってくれていたのがわかる。その後全員で軽い昼食を取ったが、そのときも気まずさは拭いきれなかった。





今日買った服のタグを切っていく。窓から入る陽の光で自室は暖かくなっていた。全て切り終わり人ごとに服を分けていく。最初に真田さんと猿飛さんに運ぼうと思い衣服を抱え部屋を出ると、階段を上がってきた猿飛さんと目が合った。


「どーも」


ニコリという表現がぴったりな笑顔を浮かべ、手を挙げる彼にわたしも笑う。


「これ、今日買った真田さんと猿飛さんの服です。部屋に仕舞いますね」
「うん。ありがとう」


どうぞ、と扉を開けてくれた猿飛さんにお礼を言って今は彼が使う兄の部屋に足を踏み入れる。クローゼットは兄の服でいっぱいなので、空だった衣装ケースに仕舞わせてもらうことにした。作業が終わり猿飛さんを振り返る。彼は壁にもたれて無表情で私を見下ろしていた。だがそれも、わたしが見ていることに気づくとすぐに笑顔に戻った。


「ありがとね」
「いえ、お邪魔しました」
「さっきの、気にすることないよ」


彼を見ると少し困ったような笑みを浮かべていた。さっきの、とは昼食前のことだとすぐにわかる。


「あの」
「ん?」
「長曾我部さんと毛利さんは、仲が悪いんですか?」
「うん、そうだね」


一度目を深く瞑ったあと、猿飛さんは再び口を開いた。


「四国の長曾我部と安芸の毛利は、瀬戸内海をはさんで常に対立してるんだ。あの二人の価値観の相違とか、理由はいろいろあるんだろうけど」
「そう、なんですか」
「あとは真田の旦那と、伊達政宗は好敵手っていう関係。いつか決着つけるって意気込んでるよ」
「そ、そうなんですか……」
「うん」


ほんと困った面子で来ちゃったもんだよ、と言って大きくため息をついた猿飛さん。


「ごめん、沙季ちゃんに聞かせる話じゃなかったね」
「……いえ、ありがとうございました」
「どういたしまして」


お礼を言って、彼の部屋を後にした。改めて聞いた彼らの関係に驚きやら何やらで頭がいっぱいだ。伊達さんと真田さんが何かと喧嘩になりそうなのも、二人がライバルという間柄だからなのか。それなら納得がいく。


「ほんとに、すごい面子で来たんだなあ……」


小さな声で言ったわたしの言葉は、静かな空間に消えていった。
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