はっきりしない視界で時計を見ると短針が指していたのは午前五時。目覚ましをかけていないのに目は覚めた。あれ、なんかデジャヴを感じる。そういえば昨日もそうだったような。


「昨日……」


一気にどこかへ飛んでいった眠気。布団を剥いだ。自室を出たあと大きく足音を鳴らしながら階段を降りる。リビングにいたのは、昨日出会った戦国の方々。


「おはようございまする、沖田殿!」
「おはよう」
「おはよ!」
「おう」


彼らを見て、昨日のことはやっぱり夢じゃなかったと思い直した。


「あ、お、おはよう、ございます」


テレビを見ていた彼らがしてくれた挨拶に少し腹がきゅっとなった気がした。リビングには伊達さんと片倉さん、毛利さんの姿は見あたらない。まだ早朝だが、昔の彼らの朝は早いらしい。


「あ! 朝餉の用意します」
「そんな急がなくても大丈夫だぞ」


長曾我部さんの声を背中で聞きながら台所に向かう。わたしの後に入ってきたのは猿飛さんだった。


「手伝うよ」
「あ、大丈夫ですよ」
「やらしてほしいの」


笑顔だがどこか有無を言わせぬ感じが漂う。毒を入れないか見る名目にもなるだろうし、断らない方がいいのだろうか。ならお言葉に甘えようかと思いお願いしますと言うと、猿飛さんは満足そうに笑った。協力のおかげで予定より早く朝ごはんは完成。全員が集合していたため食べ始めも早かった。こんなに早い時間に食べることなんて滅多にないなと思いながら食事に箸を伸ばす。おいしい、とまた言ってもらえたのは嬉しかった。


「沖田殿、お頼みしたいことがありまする」


朝食の片付けを終え冷蔵庫の中身を確認していると背後からかけられた声。そこには真田さんが。赤色のジャージが彼にとても似合ってる。


「どうしました?」
「某、毎朝の鍛練を日課としておるのでござる。無茶な頼みかとも思いますが、この家でもその機会を与えては下さらぬだろうか」
「ああ、良いですよ」
「おお!ありがたい! あ、だがそのためには、槍が必要なのでござるが……」


言いづらそうにして下を向く彼に、ああ、と思った。確かに武器が無ければ練習ができない。庭を使ってもらうとして、そこで槍を振り回していたらご近所に通報されてしまうだろう。


「うーん、槍を出すのはちょっと厳しいですね……」
「やはり……」


肩を落とす真田さん。どうしよう、と悩んでいると頭の片隅に浮かんだのは彼らの武器を閉まっているあの倉庫だった。


「あ! ちょっと待ってて下さい」
「しょ、承知致した」


庭に出て倉庫の鍵を開ける。中を見渡すと長い二本の棒に目が止まった。木でできているそれは木刀のように加工されている。私が小さいころから家にあって、何に使うんだろうと思っていたが役立つときがきたようだ。それを手にとり真田さんが持っていた槍と長さを比べると刃の部分を合わせて丁度同じくらいだった。ラッキーだ。


「これ代わりにどうですか」


棒二本を手に持って庭からリビングの中に叫ぶ。近くに来てくれた真田さんの目が嬉しそうに見開かれた。


「おお! お貸し頂けるのでござるか?」
「はい、これでよければ」
「忝のうござる!」
「いえ、どういたしまして」
「鍛練の時は庭を使ってください」
「わかり申した。感謝いたす」


このときふと気付いたのは靴がないということだった。鍛練をするのにも靴がなければできない。でも靴は家にあるもので全員分なんとかするのは難しいだろう。サイズもきっと違う。


「これから買い物に行きませんか?」
「買い物?」
「外に出ようと思うんです」
「おお!」
「俺も行きたい!」
「確かにこの目で見ておく必要があろう」
「俺様も連れてってほしいな」
「俺も行く」
「ならばこの小十郎もお供します」


黙っていた彼らが急に上げた声にびっくりした。もしやこれは全員行きたいということか。何気なく言ったことだったが、やはり皆外に興味があるようだ。だが現代を何も知らない人を七人も一人ではきっと見ていられない。外で何かあったら大変だ。


「申し訳ないんですが、全員は……」
「まあ、この人数は大変だよね」「何人行ける?」
「二、三人、ですかね」
「では某が!」
「Wait! 俺だ」
「何故政宗殿なのだ!」
「俺も行きたい!」


俺が、某が、という口論が始まり暫く続いた。これは決まりそうにない。どど、どうしよう。


「ならば勝負!」
「上等だ!」
「まま、待って下さい」


真田さんは先程の木の棒二本を、伊達さんは昨日わたしがリビングに置きっぱなしだった木刀をそれぞれ手に掴み相手に向けた。バトルでも始めてしまいそうな勢いの二人を慌てて止める。二人はハッとした様子で上げていた手を降ろした。


「じゃあどうやって決めるんだ」
「ここは公平に……、じゃんけんにしましょう」
「じゃんけん?」


首をかしげたり不思議そうな顔をする彼らにじゃんけんについての説明を始める。最初は何が何に勝つのかなどに混乱していた様子だったがすぐに理解してもらえた。最後まで苦戦していた真田さんにも覚えてもらい一段落。こんなもので勝敗が決まるのかと言いたげな人も、面白いと感心する人もいて、反応はそれぞれだった。


「勝った!」
「ああ……!」
「Ha! 当然だな」
「………」
「叱って下されお舘様あああああ!」
「よっしゃ!」
「何故我が……」


最初はグーの合図で始まった七人のじゃんけんは数回のあいこを重ね、猿飛さん、伊達さん、元親くん三人の勝利に終わった。


「行ってくるぜ、小十郎」
「しかし……」
「Don't worry! 大丈夫だ」
「俺も行きたいぞ佐助!」
「もー、仕方ないでしょ? 留守番よろしくね旦那」
「羨ましいなー元親」
「お前らの分まで見てくるぜ!」
「じゃあ、行ってきます」


じゃんけんで勝利を治めた三人には兄の服に着替えてもらった。玄関で会話を交わしたあと、未だ不満げな四人に見送られて買い物に出発した。


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