「お風呂の準備ができたんですけど、誰から入りますか?」


洗面所から戻り、廊下に続く扉の前で再び全員が揃ったリビングに向かい声をかける。食後だからだろうか、殺伐とした雰囲気がほんの少し和らいでいる気がした。


「俺はいつでもいいぜ」
「一番駆けは某が!」
「なんで真田幸村が最初なんだよ。なら俺が先に行く」
「譲りませぬぞ!」
「我が先だ。貴様らの後になど入りとうない」


今まで特に争いもなくきたが、ここでまさかの順番争い。どうしよう、ヒートアップしてしまったら。などとわたしが一人不安になっている間に意外にあっさりと順番は決まった。


「某が入らして頂きまする」
「旦那、後つかえてるから早めにね」
「うむ!」


最初は真田さんに決まったらしい。用意していた服を持って、共に洗面所に向かった。


「出たらこれに着替えてもらえますか?」
「わかり申した」
「お風呂に入る上で、わからない点あります?」
「大丈夫でござる!」


自身満々に言う真田さんに少し笑いながら、じゃあごゆっくり、と言って離れようとした洗面所。


「……沖田殿」
「どうしました?」


名前を呼ばれ振り返る。彼にしては小さめの声。


「今日は佐助が無礼な真似をし、申し訳ござりまさせんでした」
「え? 猿飛さんですか?」
「某らの為に作ってくださった食事を、あのように疑って……」


申し訳なさそうに真田さんは話す。彼が言うのはどうやら夕餉のときのことらしい。特に説明はされていないが、猿飛さんは真田さんの部下にあたる方だろう。


「大丈夫です、疑われるのは仕方ないことですし」
「しかし……」
「猿飛さん、食事中もずっと真田さんの様子見てました。心配なんですねきっと」


猿飛さんも片倉さんも同じだろう。自分の主を気にかけるのは当然だ。全く知らない場所でその人に何かあったらと。そうなれば食事を疑うのだって当然のことだろう。


「真田さんが謝ることじゃありませんよ」
「いえ、部下の無礼に謝罪をいれるのは当然のことにござる」
「ありがとうございます」


ずっと気にしていてくれたんだろう。優しい人だ。お礼を言うと、真田さんの顔が赤く染まった。


「どうかしました? 顔が赤い……」
「いい、いえ! 何でもござりませぬ!」


ハッとしたようなあと真田さんは、失礼いたす!と言って洗面所に駆けこんで行ってしまった。あんな容姿で意外と初心なのかな。失礼だが、かわいいなと思ってしまった。



「真田さん、お風呂大丈夫でした?」
「はい!」


それから暫くしてリビングに戻ってきた真田さん。顔は風呂に入る前より赤く上気していた。次に入ると言った毛利さんに洗面所の前で着替えを渡したあとリビングに戻ると、床に少し水滴が落ちているのに気付いた。


「旦那、水垂れてる」
「す、すまぬ」


水滴は真田さんの髪から落ちたものらしい。猿飛さんに言われて、焦ったように首にかけていたタオルで髪を拭いている。真田さんほど髪が長いと乾くのに時間がかかるだろう。洗面所の棚からドライヤーを持ってくる。


「髪の毛、乾かしますか? 乾かす機械があるんですけど」
「おお、そんなものが」
「これを上げるとあったかい風が出るんで、こうやって髪に当ててください」
「うお!」


いきなり出た温風と音に驚いたらしい真田さんが声をあげる。その様子に笑いそうになったが、失礼な気がして堪えた。真田さんは恐る恐るドライヤーを髪に近づける。


「ほんとに風が出てる」
「おもしれえな」


ドライヤーひとつでもまったく違うんだな。


「毛利さん、髪を乾かしますか?」
「なんだ、それは」
「ドライヤーって言って、風が出て……」
「必要ない」


そう言って毛利さんはリビングを出て行ってしまった。彼に拒否されると、なんだかそれ以上言葉が出てこない。


「気にすんなよ。毛利はああいう奴だからな」


ドライヤーを触りながら長曾我部さんはそう言った。彼は真田さんが使い終わったあとから、ずっとそれに興味津々という感じだ。最初に、テレビなどの現代の機械に一番興味を示していたのも彼だったように思う。


「面白えなあ、これ。どうなってんだろうな」


厳つい見た目の割に、おもちゃをもらった小さな子供のようなんだか反応をする彼はなんだか意外だった。伊達さんのあと、片倉さん猿飛さん、長曾我部さん、前田さんという順番で風呂に入った。

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