あの後、庭にある物置小屋に彼らの武器を運んでもらった。この間掃除したため中はそれなりにきれいだった。布を敷いてその上に刀や槍を寝かせ、鍵を閉める。確認したければいつでも鍵を開けます、と言えば少し安心してくれたように見えた。彼らにとってあの武器はとても大切なものだろう。しっかりと責任を持って預からなければ。作業が終わった後リビングに戻り今更になって気付いたのは、彼らが土足のままだということだった。


「あ! 靴、ぞ、草履? 脱いでほしいです!」
「え? あ、やべ!」
「し、失礼致した!」


本当に今更だった。何で今まで気付かなかったんだ。床には既に所々土が付着している。あとで掃除しなきゃな、と苦笑が漏れた。そして改めて思った、彼らの格好のこと。兜を被っていた伊達さんや毛利さんは大分前にそれを外していたが、身に纏っているものは全員戦装束のままだ。こちらも今更だが、この空間に彼らの格好は余りにも不自然だった。


「皆さん、着替えてもらってもいいですか?」
「この格好じゃだめなの?」
「外に出たとき、少し目立ち過ぎてしまうので」


その服重そうですし、という言葉は飲み込む。


「着替えあんのか?」
「はい。用意してきます」


リビングを出て、階段を少し急ぎ足で上がっていく。兄ちゃんの服があるし、父さんの服もしまってある。全員分の洋服はたぶんあるだろう。そういえば自分も朝のスウェットから着替えてない。


「あ、着替えどうしよう」


とりあえず買い物には行かないといけないな。


「着替え終わりました?」


ドア越しに、リビングの中にいる彼らへ声をかける。今は選んだ洋服へ着替えてもらっている最中だ。


「おい、これどうやって閉めるんだ」
「あれ、夢吉がいない!」
「旦那、服の前後逆」
「ぬお!」
「Oh、随分軽いな」
「左様でございますな」


何人かの声とバサバサという衣擦れの音がドアの向こうから聞こえてくる。もう少し時間がかかりそうだな、と思っていたところで向こう側からドアが開き猿飛さんが顔を覗かせた。


「お待たせ」


皆さんの容姿のせいか、洋服もよく似合っていた。細身な兄の着る服は、真田さんや猿飛さんたちには丁度いいようだ。体格のいい前田さんや長曾我部さんには、その中でもなるべく大きい服を選んで着てもらった。よかった、全員無事着替えることができたみたいだ。


「皆さんが着ていた服は、洗ってから保管させてもらうので大丈夫ですか?」
「ああ」


これ洗濯機かけられるのかな、ということが気になった。彼らの時代の服と比べて軽いらしく、皆どこかそわそわとして落ち着かない。それにも段々慣れてもらうことにしよう。着替えが終わった頃には、空はもう朱に染まり始めていた。唐突に、昼に自分の腹から聞いたものによく似た大きな音がリビングに響いた。音の発信源を見ればそこには真田さんが。


「腹が減ったでござる……」
「ちょっと、旦那......」
「あ、夕飯、夕餉の用意始めますね」


実際は夕飯にはかなり早い気がするが、この人数の量を作るにはそれなりに時間もかかるだろう。それに朝から何も食べてない。たぶん彼らもそうだ。椅子に降ろしていた腰を上げ、台所に向かった。


「夕餉作るの見させてもらっていい?」


冷蔵庫を開けようと伸ばした手を止めて声の主を見ると猿飛さんがいた。


「どうぞ」
「お、ありがとー」


夕飯は簡単だし量もある鍋が良いかと思ったがやはり同じ鍋をつつくというのは抵抗があるだろう、そして洋食よりも和食が良いだろうという考えで、今日は煮物にすることにした。この人数の分をつくるのは大変だろうなと思うと少し重い気持ちになる。


「こんな簡単に火がつくの?」
「これはコンロっていうんです。ガスが出ててすぐつくんですよ」


へえ、と感心したような声を上げる猿飛さん。ガスはわからなかっただろうかと思ったが、猿飛さんはそれには尋ねて来なかった。彼が疑問を持ったところに説明をいれながら料理を進めていった。いつからいたのか、片倉さんも台所の入口に立ちわたしが作っているのを見ていて、むだに緊張する。

「すみません、お待たせしました」
「おお!」
「上手そうだなー!」


一緒に作った味噌汁とほうれん草のおひたし、そして昼に炊いておいた米と共にテーブルに並べた。テーブルの上は食器でいっぱいだ。それでも全員の分おける我が家のテーブルの大きさには改めて感心した。椅子も一応人数分ある。他の部屋からも集めたちめ、ばらばらだけれど。いち早く席についたのは真田さんと前田さん。食べるのを楽しみにしてもらえるとやはり嬉しい。どうぞ、と声をかけたあとだった。


「待って、旦那」
「どうしたのだ? 佐助」


箸を手に取り食器に手を伸ばそうとしていた真田さんに待ったをかけたのは猿飛さんだった。少し緊迫したその声に、前田さんとも食材に向けていた視線を上げる。どうしたんだろう。そう思いながら真田さんたち三人以外の席につこうとしない人たちにも、皆さんもどうぞ、と声をかけようとしたが。


「これを食してみよ」


毛利さんからのその言葉は他でもない私に向けられたもの。だが何故そんなことを言われたのかがわからなかった。


「え?」
「食してみよと言った」
「でもこれは皆さんの分で、」
「毒を盛ったか」


毛利さんの言葉が一瞬理解できなかった。毒って、どういうことだろうか。


「食さぬということはそういうことだろう」
「おい!」
「毛利殿! 失礼でござろう! 沖田殿は某らのために、」
「大丈夫だという保証がどこにあると申すか」
「毛利の旦那の言う通りだよ、真田の旦那」
「な、佐助!」
「見てた限りは料理中に毒をいれた素振りはなかった。ね、右目の旦那」
「ああ。でも万が一ということがある」
「その通り。何かあってからじゃ遅いんだ。警戒しないとダメだぜ」


冗談めかしたように言う猿飛さん。軽い混乱状態にある頭を働かせて、ようやく疑われてるのかと理解した。猿飛さんが料理を作るのを見たいと言ったのも、片倉さんが入口にいたのも、わたしが毒をいれないかを見張るためだったらしい。すぐに食べないわたしに、彼らの中での疑いが、きっと大きくなっているだろう。真田さんたちから心配するような視線を送られているのがわかった。とりあえず疑いをとかなければ。自分の分の夕飯に箸を伸ばした。全部を一口ずつ口に運ぶ。見張るような視線の中、口の中のものをゆっくり噛んで飲み込んだ。


「大丈夫です。何も入ってませんよ」


毒ってそんな即効性があるものじゃなければ、今私が平気に見えても意味がないのだろうか。これ以上聞かれたらどうしよう。


「いただきます!」


前田さんの元気な声が沈黙を破る。わざと明るい声を出してくれているように思った。立っていた方たちもあまり気が進まなそうだったが、席に着き始めた。
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