「奥州筆頭、伊達政宗」
「政宗様の腹心、片倉小十郎だ」
「真田源二郎幸村にござる!」
「猿飛佐助でーす」
「長曾我部元親だ」
「毛利元就」
「俺は前田慶次。こいつは夢吉。よろしくな!」


彼らは本当に、すごい人たちだった。


うちに住むことがとりあえず決まったあと、彼らに名前を尋ねた。それらは全て聞いたことがあるものだった。学校の教科書に載っていたり、テレビで聴いたことがあったり、驚きで頭が整理できない。


「どうかしたのか」
「いえ、皆さん聞いたことがある名前だったので......」
「俺たちの名前は先の世でも知られてるのかい?」
「はい」


尋ねてきた前田さんはどこか嬉しそうだった。他の人もその事実に少なからず驚いているよう。今は皆、リビングの中を好きなように動いていた。好奇心だけで見る人も、どこか探るように見ている人もいる。その様子を視界にいれていた。


「そういやまだ、アンタの名前を聞いてねぇな」


長曾我部さんがテレビを触りながら呟く。そういえば、というように他の人たちの視線も集まる。少し緊張した。


「沖田沙季です」
「沙季ちゃんか。いい名前だな」
「あ、ありがとうございます」
「この屋敷の中、見せてくれるか?」
「そうですね、ご案内します」
「やっぱり色々違うの?」
「多分、はい」
「それではお頼み申す」


そう言って始めた自宅の案内は中々スムーズには進まなかった。当然だと思っているものを説明するのはなかなか難しい。風呂やトイレの使い方、水の出し方、電気のつけ方、それから身の回りの物の名前と使用法。それだけでかなり時間がかかってしまった。一気に説明した為理解しきれていないところもあるだろう。それらはこれから少しずつ覚えてもらうことにしよう。使ううちに慣れるだろう。


「全然違うな」
「すごく進化?してるよね」
「まだ解んねえところあるなあ」
「すみません、わたしの説明が下手で……」
「そういうことじゃねぇよ」


拙い説明のせいで余計に疲れさせてしまっただろう。アンタのせいじゃねぇ、と長曾我部さんは言ってくれたけれど。突然自分のお腹からぐぅと小さく音がした。時計を見るともう昼食をとる時間から大分経っていた。


「皆さんお腹空いてますか? 何か食べます?」
「昼にも飯を食べるのか?」
「えっと、食べないんでしたっけ」
「俺たちは朝餉と夕餉だけだ」


お昼にご飯を食べないのか。歴史の授業で聞いたようなそうでないような。ならばその分、夕飯をたくさん食べるのだろうか。そうなると心配なのはそれだけの材料が家にあるかだ。冷蔵庫の中身を確認する為に台所に足を向ける。こないだ買い込んだ食材がそれなりにあった。夕飯を作るには困らなそうだ。自分だけ昼食をとるのは悪いので、我慢しよう。台所から改めてリビングを見る。テレビを見たりソファーに寝転がったり、壁に背を預けたりしている彼らの間に特に会話はない。武将たちが天下を狙い領地を争う戦国時代。彼らの中で主従のような関係にある人たちもいるようだが、それを除けばどう考えても彼らは皆、敵同士だ。よくよく考えてみる。彼らが同じ家に住むということ。とても、危険なことじゃないか……? そうなると意識して見てしまうのは彼らの刀や槍。


「あの、」
「どうしたんだい?」
「申し訳ないんですけど、皆さんの武器、預けてもらえませんか?」


これに対しては返ってきたのは拒否を表す言葉だけだった。家の中を説明する際も彼らが肌身離さず持っていたそれら。置いて下さいとは言えなかった。警戒するのは当然のことだが、ここではそうもいかない。


「現代では武器を持っていると捕まってしまうんです」
「捕まらなきゃいい話だろ」
「戦は?」
「え?」
「戦は、まだあるか?」
「いいえ、ないですよ」

戦がない、ということに驚く人も、それがわかっていたような顔をする人もいた。だが共通して安堵の表情を浮かべていたような気がしたのは、気のせいではないだろう。暫くの沈黙が流れる。だが、それを破ったのは片倉さんだった。


「そうだとしてもこれを渡す訳にはいかねえ。世の中が平和でも、この屋敷には他国の武将がいる」


たぶん皆、思うことは同じなのだろう。この家の中で何かあったときに自分の身を守りたい。それはこの家の中で何かぎ起こるかもしれないということだ。


「この家にいる間は、戦いはしないでもらいたいです」


この家で血が流れたり死人が出るのは、勘弁してほしい。いくらなんでも。高まる不安と恐怖心とは逆に、下がっていく視線。目をうろうろと泳がせていると、短い笑い声が聞こえた。


「いいぜ。竜の爪、アンタに預ける」
「ま、政宗様!」
「小十郎、お前の武器も渡せ」
「しかし……」
「これは命令だ」


腰に下がっていた六本の刀を外し、それを腕で抱えた伊達さん。止めようとする片倉さんを制し、わたしに向き合った。


「確かにこの場所で殺し合いなんざ、coolじゃねぇからな」
「いいんですか?」
「ああ」
「あ、ありがとうございます」


命令だと言われ、渋々という感じながらも自身の刀も外した片倉さんは、手に持ったそれを険しい表情で見つめていた。その様子から、渡す決心がまだついていないように見える。


「俺のも預けるよ。ここでは戦わない。約束するよ」
「俺も渡すぜ」
「某の槍もお渡しいたす」
「旦那」
「お前のものも沖田殿に渡せ」
「……わかりましたよ」
「小十郎」
「……承知いたしました」
「我の刀に何かあれば許さぬぞ」


全員が武器を預けてくれるらしい。どうなるかと思ったが、良かった。心拍数が落ち着きを取り戻してくる。


「ありがとうございます。責任を持ってお預かりします」
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