どうやらわたしは、スケートが苦手らしい。
「スケート、楽しいっすね」 「……」
にやりと意地悪く笑うリョーマくんが憎い。 無言のまませめてもの仕返しにと、黒に近い翠色の髪の毛を撫でまわす。 彼はそれにも大して驚くことはなく、マフラーを片手で巻き直して鼻先を埋めた。
可愛いなぁなんて思ったのも束の間、リョーマくんの少しつりあがった目がわたしを睨む。
「なまえ先輩がスケートがいいって言ったんでしょ」 「リョーマくんの誕生日だし、特別なとこがいいかなって…」 「……ふうん」 「…それに、滑れると思ったんだもん」 「でも、全然ダメじゃん。…あ、そこ」 「え?う、わっ」
しれっとした顔で呟かれた言葉に反論しようと口を開けば、スケートリンクの氷が抉れているところに靴が引っかかった。 氷の削れる音がして、バランスを大きく崩す。 あ、やばい。遠くで手塚くんがわたしの名字を叫んだけど、さすがに間に合わないよ、ね。
「……危ないんだけど」 「…ごめんなさい」
壁際というより、リンクの真ん中あたりまで来てしまった(と言うよりつれてこられた)せいで、わたしの手はリョーマくんを掴むしかなく。 背中に腕を回され、抱え込まれながら息をつく。どうにか転ばずにすんだ。
うう……自分より身長の低い男の子に支えられるってすごく情けない…。
心配そうにこっちを見つめる大石くんや菊丸くん、手塚くんたちに「だいじょうぶー!」と震える声で返せば、ほっとしたようにまた滑り始めた。 隣でリョーマくんが唇を尖らせるのが見えて、首を傾げる。
「あ!リョーマくんありがとう、助かった」 「べつに。…つーか先輩、重い」 「ご、ごめん!」
ほぼリョーマくんに体重を預けるかたちでいたせいか、彼が眉を寄せながらそう告げた。お、重いって言われた…たしかにそうかもしれないけど! そう思いつつ慌てて飛び退き、腕を離してリョーマくんから距離を置く。
つるつると滑るスケートリンクは、正直立っているだけで心許ない。
足場が不安定なのって、こんなに怖いんだ…!さっきまでは河村くんとか不二くんとか、リョーマくんに支えてもらってたし…。 また転びそうになったらどうしよう。と、とりあえず壁際にいきたい。
「手、かしなよ」
リョーマくんがちいさく呟いて、わたしに手のひらを向けた。えっ、と声が漏れる。 さっきまで腕をかりていたのは事実なのだけれど、手、って…!不二くんでさえも腕だったよ!
きれいな手と彼の顔を交互に見比べて、どうしようかと悩んでいると、無理矢理握られた。
「あの、わたし本当に滑れないよ」 「知ってる」 「……つまんなくない…?」
滑らかな指先と熱さにどきどきしながら(あれっなんか変態くさい?)、なるべく平常心を装って問いかける。 いや、つまんないよね普通。わたしが人並みに滑れるならまだしも、だめだめだからなぁ…。 申し訳なく思いながらその手を離そうとすると、リョーマくんがわたしを睨んだ。こ、こわい。先輩を睨むってどういうことなの。
「そんなことない」 「で、でも」 「いいから。行くよ」 「や、ちょ、待って待ってっ!」
周りで菊丸くんたちの笑う声がする。笑われてる!笑われてるんだけどリョーマくん! その背中をなんとか追いながら、繋がれた手をぎゅっと握った。
プリーズストップ!
「なまえ先輩、イチャつくのも程々にしてくださいよー!」 「な、桃城くん!わああっ転ぶ!転ぶごめん!」 「…断言してるし」
120108 遅ればせながら。リョーマ誕生日おめでとう!
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