かたかたと鳴るヤカン。火を止め、茶葉の入ったティーポットへお湯を注ぐ。蒸らしている間に戸棚からクッキーを出して皿に取り分けた。
なんで夜中にこんなことしてるんだか…。来るなら来るで、もう少し早い時間にきてほしい。
それでもきっとわたしは、猫耳と尻尾の生えた姿にびっくりしたんだろうけど。


温めておいたカップにお茶を淹れる。たしか千歳は、ストレートの方が好きだったはず。
そう思い出して、牛乳は入れずにそのままトレーに乗せた。




「できたよー」
「名前、これ、なんの味すっと?」
「ジンジャー。生姜の…」
「俺の好いとうやつったい!」




テーブルの上に皿とカップを乗せ、炬燵の布団に頬をすり寄せている千歳に向ける。
薄い茶色のクッキーを見た途端、千歳は目を輝かせた。
…なんというか、その表情が今の格好にものすごく合っている。ぴこぴこと動く猫耳や、ゆらめく尻尾が可愛く思えてしまう。





「……触ってもいい?」
「どこを」
「耳。…と、しっぽ」
「よかよ?ばってん、引っ張らんでほしか」
「う、うん」



ぱり、と小さく音をたててクッキーを齧る千歳は、わたしが触りやすいようにと、頭をこちらに向けた。
毛並みのいい黒の猫耳。その内側は薄っすらとしたピンク色で、正直かわいすぎると思う。これが金ちゃんについていたとしたら、わたしは真っ先に抱き締めたはず。

恐る恐る指先を伸ばして触ろうとすると、千歳は小さく笑い声を漏らした。
最初は引っ張ったのに、とか思ってるはず。さっきのはまだ混乱してたし、つけ耳だと思ったから…!





「…ふわふわしてる」
「尻尾もそうばい、ほら」
「ひゃあっ!…びっくりした、動かせるんだ」



柔らかい耳を指で弄っていれば、長い尻尾がするりと腕に絡まった。目を丸くして問い掛けると、千歳は口元を緩めて頷く。すごい、大発見だ。
絡みついたまま、離そうとしないその黒い尻尾を触ってみる。固い芯はあるものの、周りはふわふわの毛で覆われていて気持ちがいい。



「くすぐったか」
「あ、ごめん」
「…そげん気に入ったと?」
「べっ…別にそういうわけじゃないけど」



離れていった尻尾を名残惜しい気持ちで見つめていると、彼は目を細めながらわたしの頭を撫でた。
むっと唇を尖らせて千歳を見上げ、頭の上で揺れ動く猫耳を指差す。




「撫でても生えてこないよ」
「残念ばい。名前の猫耳、見たかねぇ」
「真顔で言うな。……あれ、紅茶飲まないの?」



皿の上のクッキーは綺麗になくなっていると言うのに(あっわたしの分が一枚減ってる)、紅茶には手をつけていない。いっつも熱いうちに飲んじゃう千歳にしては、珍しい。

不思議に思って尋ねれば、今までぴんと立っていた尻尾が、くにゃりと床に垂れ落ちた。





「……ねこじた」
「えっ」
「やけん、冷めるまで待っとっと…」
「…どこまで猫化してるわけ…!?」




めったに見せない照れた表情を隠すように、千歳は炬燵に潜り込んだ。
というか、それなら牛乳ほしいって言いなよ!







「ふーふーしてほしか」
「絶対いや」
「けち」



どこまでにゃんだ


120110


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