「…えっ」
「にゃあ」




悪ふざけをするようにそう鳴き真似をして、眉を寄せながら微笑む千歳。

ふわっとした髪の毛から、黒の猫耳が覗いている。
背後ではしっぽがゆらゆらと揺れていた。





「……名前、吃驚しとっと。面白かぁ」
「な、なん、で」



どこに視線を合わせていいのかわからないまま、とりあえず目の前の猫耳を指差す。
彼の瞳に映るわたしは、目を丸くしている。千歳は小さな笑い声を漏らした。


ふかふかとした猫耳についているシルバーピアスが、光る。





「急に生えてきたばい」
「いや、ありえないでしょ…!」
「出てきたもんはしょんなかけん、入れて」
「ちょ、ちょっと」




下駄を脱ぐ千歳に、ぐい、と押し退けられ、慌ててその胸を押した。



わたしは何も見てません。何も知りません。
…猫耳と尻尾の生えた千歳なんて、見てない、見てない!









◇◇◇










「…で、どういうことですか」
「温かねぇ」
「話を聞け」
「いたた」




真っ先に炬燵に入って口元を緩める千歳の頭を、思わず叩く。
ひょこ、と猫耳が揺れて、なんだか悪いことをしたような気になった。


うう、やっぱり部屋に入れるんじゃなかった!

放っておくと寝てしまいそうな千歳の腕を引っ張って、なんとか上半身だけ引きずり出すことに成功する。こいつ重すぎ。




「腕ば引っ張ったら痛か…いかんばい、名前」
「しょげるな!…ねえ、何で耳と尻尾が生えてるわけ?」
「俺もいっちょんわからん」
「……つけ耳とかじゃ、ないよね」



茶色のクッションに頭を乗せている千歳の耳を、強く引っ張る。痛かったらしく、千歳はへんな声をあげた。
根本をじっくり見てみても、頭皮からしっかりと生えていて、つけているわけじゃなさそうだ。


千歳の傍に座り、深く溜息をついた。



意味がわからない。

展開がファンタジーすぎるし、何でよりにもよって千歳に猫耳と尻尾なんだろうか。女の子につくのがセオリーってものじゃないの?
男の子についたとしても、それが金ちゃんなら可愛いだろうけど…。



194pの彼に生えた猫耳をじっと眺め、また溜息をつく。





「そぎゃん溜息ついとっと、幸せば逃がしとるこつになるよ」
「もう逃げてるってば…」
「じゃあ俺が分けてやるけん、安心しなっせ」



もぞもぞと炬燵から抜け出した千歳に、ぎゅっと抱き締められる。背中に回った手を感じながら、肩口へ額を寄せた。

千歳の匂いがする、と呟いたら、笑われた。





「…普通さぁ、恋人にこんな姿見られたくないって思わないの?」
「ばってん、むぞかよ」
「千歳についてても可愛くない……」
「冗談ばい。名前は一人暮らしだけん、色々と都合がよかね」
「………。え、待って、泊まる気?」





ばっと身体を離して、耳と尻尾を生やしながらのほほんとする張本人を見上げる。
たしかにわたしは一人暮らしだし、千歳は家族と住んでるから、耳や尻尾を隠すのには都合がいいのかもしれないけど。

いや、さすがに千歳でもそんな図々しいことは……





「そのつもりだにゃあ」





千歳が笑いながらこくんと頷いた拍子に、柔らかな猫耳が揺れた。
にゃあってなんだ、にゃあって!!


にゃんとびっくり


111221



戻るにゃ 進むにゃ




×