格好良く見える瞬間








目覚し時計の鳴る音が聞こえた。
瞑っていた瞳を開けると、自分の部屋ではない景色。……えーと。何度か瞬きをする。覚醒しない頭でゆっくり考えて、謙也の家に泊まったことを思い出した。




「(そうだ…謙也と一緒に寝たんだった)」



寝たと言っても、本当にそのままの意味。同じベッドで寝ただけ。


腰を起こして、鳴り止まない目覚し時計を探す。ああ、あった。水色とシルバーのチェック柄、可愛いやつ。それのボタンを手で軽く叩いてから、大きく伸びをする。

隣で未だ寝ている謙也を見てみると、子どもみたいな寝顔だった。かわいいなぁ、謙也は。口元で緩く笑んで、時間を確認する。



「まだ6時かー」
「……ふぁ…」




呟くと、謙也がもぞもぞと動いた。カーテンの隙間から漏れる朝日が眩しいらしく、顔を顰めている。手を伸ばしてカーテンを引っ張り、またベッドに寝転がった。…あ、謙也の匂いがする。


近距離で謙也の顔を見つめる。
柔らかめの金髪で、前髪に癖がある。触り心地を確かめようと指先で触れたら、ふわふわしていた。短めの睫毛は呼吸のたびに、すこしだけ揺れる。



枕を使ってないからすごく寝辛そうだ。身体を起こし、謙也の首を持ち上げて枕に乗せる。肩の骨が鳴ったみたいで、謙也は眉を寄せた。やばい、笑っちゃいそう。




「…ん…」
「あ、起きた」
「……名前?」



薄く目を開けた謙也に、微笑んでみせる。…飛び上がるだろうなぁ、謙也。安易に想像できて、我慢していたのに思いきり笑ってしまった。


謙也は目線をうろうろと彷徨わせたあと、わたしをじっと見つめる。寝惚け眼とはこのことだ。すっごい眠そう。









「名前…」
「っ、え」




急に真剣な表情をしたかと思うと(すごく格好良かったんだけど!何あれ!)、伸びてきた腕が腰を捉えて、そのまま抱き寄せられる。謙也はわたしの頭に鼻先を近付けて、腰に回した腕の力を強めた。



いや、えっと……何この状況。



普段の謙也からは想像もできない行動に、言葉が出ない。

謙也の胸に押し付けられた耳元からは、安定した鼓動が聞こえる。それと正反対で、どくどくと高鳴るわたしの心音。や、やばい、なんか、謙也がかっこいい。






「! ちょっ…け、謙也!?」



謙也の膝がわたしの両脚の間に割り込んでくる。ずり、と借りたズボンが下がっていき、慌てて腕を叩いた。び…びくともしない…!!


しかも、Tシャツの中に手が入っている感覚がする。謙也の指先は、悪戯に動くことはないけれど、たしかにわたしの肌に触れていた。背筋が、ぞくぞくする。
無理矢理動こうとした瞬間、タオルケットが床に落ちた。





「(わあぁ、ひ、膝が…!)」




太腿に謙也の膝が当たった。…相当際どいところまで、きてる。半ば涙目で、どうにか謙也を引っぺがそうと肩を押した。が、全く動かない。


どうすればいいんだろう、弟くんを呼ぶのはさすがに……ぎゃっ、指が背筋にきた…!!






諦めかけたそのとき、耳元で聞こえていた鼓動がどんどん早くなっているのを感じた。
え、と思い見上げると、今まで見たことの無いぐらい、真っ赤な謙也の顔。






「謙、」
「わああああ!!!」
「う…うるさっ…!」
「名前すまん!!お、俺、寝惚けて、」





腕を離され、起き上がって深呼吸する。心臓が痛いくらいに高鳴っていた。


謙也は真っ赤な顔のままベッドから飛び出ると、もつれた足取りでドアを開け(勢い余ってぶつかった)、振り返る。




「か、顔、洗ってくる!!」





どたどた、と慌ただしく階段を下りる音が聞こえて、「兄ちゃんどーしたの?」と弟くんのびっくりしたような声がした。



ズボンをずり上げ、熱い頬を両手で挟む。は、初めて見た、あんな謙也…。


抱き締められる直前の真剣な表情が、まだ瞳の奥に焼きついている気がして、枕に顔を押し付けた。





 




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