一緒に寝ても手が出せない







夕方、「今日、友達の家に泊まるね」とお母さんにメールしておいた。友達、ではないけど…なんか嘘ついてばっかりだな、わたし。
お風呂上がりに携帯を見ると、「謙也くんの家でしょ。迷惑かけないようにしなさいよ」と絵文字つきで返信がきていた。…やっぱりバレちゃうなぁ、さすがお母さん。
溜息をついて携帯を閉じ、謙也に視線を向ける。




「…謙也…座ったら?」
「え、あ、……はい」



なんで敬語なの。と言うかこの掛け合い、台詞が逆じゃない?
思わず笑うと、ベッドに浅く腰掛けた謙也にじとりと睨まれた。




「ごめんね、ほんと急で」
「や、今日うちのオカン出かけとるし、オトンは仕事場に泊まるらしいから…俺と弟の夜ご飯、助かったわ」
「どういたしまして。簡単なものしか作れないけどね」




苦笑いして、濡れた髪の毛をタオルで拭く。
ジャージも何も持っていなかったから、お風呂上がりは謙也のTシャツとズボンを借りた。
細身だけれど、177pもある謙也のTシャツ。わたしにはぶかぶかだった。




「ねぇ、弟くん部屋に呼ばなくても平気?」
「翔太?何で?」
「寂しいかなって思って…」
「はは、あいつは子どもちゃうで」
「そっか」




謙也を小さくしたみたいな子だったから、ちょっと不安なんだけど…大丈夫なのかな。

時計を見ると、23時半。意外と時間が経ってた。点けっぱなしのテレビからはバラエティ番組が流れている。
この部屋に来るの、いつぶりだろう。白石くんと一緒に、風邪ひいた謙也をお見舞いしたとき以来かな。そう考えると相当久しぶりかもしれない。






「あ!名前の、ふ、布団敷いた方がええよな!」
「え?ベッドあるじゃん」




立ち上がった謙也がそう言いだすのを見て、目の前のベッドを指差す。




「こっここは、俺が寝るやろ…!」
「狭いの嫌いなの?」
「そ、そう言うわけやないけど…布団持ってくるから、」
「えー…面倒だからいいよ、もう眠いし。ほら謙也、奥いって」





ベッドの前で顔を真っ赤にする謙也を壁際に無理矢理押して、ごろんと転がる。
うわあ、ふかふか。
…あ、イグアナの人形が枕の上に乗ってる。かわいい。






「電気消すね。…枕いらないの?」
「い、いらん!」




枕に頭を乗せず、壁にぴったりと貼り付く謙也を見て吹きだしそうになった。あぶない。ここで堪えなかったらきっと逃げ出す。
リモコンで電気を消すと、電子音がしてすぐに消えた。あー、真っ暗って落ち着くなぁ。苦手な子もいるけど、わたしは好き。



触り心地のいいタオルケットを足元から引っ張って、謙也にもかける。と、その肩がびくっと震えた。


……彼女が泊まりに来てるって言うのにこのヘタレ度合いはどういうことなんだろうか。
一緒に寝ようなんて言うのも、本来なら男の立場……いや、先入観を押し付けるのはよくない。謙也がヘタレなのはわかりきってること、だし。




「謙也ー」
「な、なん、や」
「据え膳食わぬは男の恥、って知ってる?」
「? 知らん、どういう意味?」
「…財前くんに聞いてみて。おやすみ!」





枕に顔を突っ伏して、瞳を閉じる。
前までは視線が合うだけで照れてた謙也と、一緒に寝れるのは幸せだよ。…うん。




 




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