想像と違う








「今日の部活、謙也はシングルスだったね」
「ああ、見てたん?久しぶりやったんやけど、めちゃくちゃ疲れたわ…」
「あはは、お疲れさま」




謙也と一緒に帰ると、いつもより早く家につく。理由は謙也が早足だからだ。
時々その速度に追いつけなくなって、制服の袖を引く。と、もっと早足になる。
最初は、そんなところも可愛いと思ってた。でも、今はあんまりそう思えない。
謙也とたくさん話したいし、もっともっと一緒にいたい。早足になるぶん、二人きりの時間が少なくなるのは嫌だ。


そう思ってるのは、わたしだけなんだろうか。





「あ。雨降ってたんやな!」
「うん。部室にいたから気付かなかったんじゃない?」




道路に視線を向けていた謙也が、そう呟く。雨で濡れた道路は、泥くさい臭いがする。
校門で謙也を待っているときに、ちょっとだけ降ってたなぁ。

謙也は頷いて、「名前は濡れんかったか?」とわたしを見つめた。…こんなふうにじっと見てくれるの、久しぶりかも。
嬉しくて、表情が緩むのを隠しもせずに、大丈夫だったよ、と笑い返す。



会話を繰り返して、帰り道を歩く。
鞄を持ち直しながらカーディガンを引っ張り、指先を隠した。


…もしかしたら、あの提案、聞いてくれるんじゃないかな。







「……あのね、謙也」
「ん?どないしたん、名前」
「お願いがあるんだけど…」



俯いて、小さな声でそう切り出す。き、緊張、してきた。
震えている足に気付かれないよう、歩みを止める。謙也は不思議そうに立ち止まって、首を傾げた。









「今日、謙也の家に…泊まらせて、ください」
「…はぁ!?」





だって、もっと一緒にいたい。
校門で待ってるとき、「謙也先輩が」「忍足くんが」って話してる子、いっぱいいたよ。

嫉妬心で思いついたこの提案。ここまでは、想像したとおりだ。
…たぶん、謙也は「そんなん無理や!」と真っ赤になって逃げちゃうんだろうなぁ。


瞳が潤むのを抑えながら、謙也の表情を見つめる。
謙也は相当びっくりしたのか、鞄を地面に落とした。…あ、まだ道路、濡れてるのに。




「とっ、泊ま…、え、何で!?」
「……お父さんと喧嘩しちゃって…」



嘘、ついた。喧嘩なんて全くしてない。
ああ、でもこれだけ焦ってるから、たぶん無理か。…謙也だもん、しょうがないよね。
どうしよう。こういう結果はちゃんと想像してたのに、泣きそう。




「お、俺は、ええけど…」


「…えっ?ほんとに?」
「せやけど、ちゃんとオカンに連絡せえよ!」




真っ赤な顔でそう言い放ち、早足で歩く謙也の背中をぽかんと見つめる。
う、うそ……!絶対だめって言われると思ってたのに!

慌ててその背中を追いかけ、にやけそうになるのを堪えた。