ヘタレな君のここが嫌い









「ねぇねぇ」
「ん?何や?」
「謙也と手、繋ぎたい」







ぽつりと呟いてから見上げれば、謙也は口元を押さえて真っ赤になっていた。
…なにその反応。女の子だってそこまでしないよ。溜息を零しそうになったのをなんとか止めて、唇を尖らせてみる。



だってさ、付き合って三ヶ月たつのに、キスどころかまだ一回も手を繋いでないって、おかしくない?
繋ごうとすれば慌てて振り払われ、ねだれば逃げられる。欲求不満なわけじゃないけど、正直我慢の限界まできていた。ヘタレにも程がある。







「こ、ここ、教室やで!」
「……ヘタレ」
「ちゃうわ!!」




過敏に反応するくせに、直そうと思わないの?
そう聞こうとしてやめる。


小春ちゃんは「名前が大事やから手ぇ出せないんやないの」なんて笑いながら言ってたけど、こっちは笑いごとじゃない。ある意味死活問題だ。


と言うのも、謙也はモテる。
白石くんや財前くんほどではないものの、普通の男の子よりは確実に好かれている。ふたりが王子様系と生意気系なら、謙也はやんちゃ系かな。親しみやすい感じ。


昨日だって、わたしが彼女だと知っていながらラブレターを渡してきた子がいたくらい。









「……わたしのこと嫌い?」
「は!?何でそうなるん!」
「女の子と握手したって聞いたんだけど」
「昨日の?おん、したい言うからええでーって…」





そうそう。告白を断るときに、握手したって。これはユウジくんから聞いた。
そんなこと知りたくなかったから、ユウジくんって鈍感だなぁと思った(小春ちゃんなんか、「一氏!!!」ってめちゃくちゃ怒ってた)。




彼女と手を繋いでないのに、他の女の子とするのはどうかと思うよ、って文句を言いたい。
でも、嫌われるのは絶対にイヤだから言わない。白石くんは言った方がいいって言ってたけど。




思い返すと悲しくなった。その子と握手をしている謙也を想像してしまう。
見上げるのをやめて机に突っ伏す。散らばった髪の毛の隙間から教室で騒いでいるみんなが見えて、余計に切ない。

はぁ。
溜息をつくと、どんどん悲しくなってくる。








「…名前?」
「なにー」
「俺、嫌いになんかなってへん。ちゃんと好きや」
「……うん」





謙也はヘタレのくせに、こういうとこはすっごく男前だ。


じんわりと、瞼が熱くなる。口元が緩みそうになるのをどうにか抑え、頭を起こした。すこし潤んだ視界には、優しく笑う謙也が映っている。
謙也のことが、すき。大好き。


それだけで嬉しくなって、机の端に置かれた謙也の指先を掴んだ。






「ななななにしてんねん!!」






「えっ…に、逃げられた…!!」
「…ほんま謙也のヘタレは天然記念物やな」






叫んで逃げた謙也を呆然と見送っていると、斜め後ろの席で頬杖をついた白石くんが苦笑する。





…謙也は好きだけど、ヘタレなとこは、きらい!






 




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