ヘタレな君のここが好き











「けーんや」
「……なにニヤニヤしてんねん、白石」




おでこに冷えピタをつけて頬杖をついている謙也に、白石くんがにやにやとした笑みを見せながら向かってくる。
謙也は思いきり眉を顰め、嫌そうに(と言っても恥ずかしいだけなんだろうけど…)白石くんを睨みつけて唇を尖らせた。




「昼休み、キスでもしたんやろ」
「は!?…な、なんで知って…!!」
「額にそれつけて帰ってきたから、最初はヤったんかと思ったんやけどな。それにしては名前の服装とか乱れてへんし」
「変な推測すなやっ!」



白石くんはわたしと謙也を交互に見比べて満面の笑みを浮かべる。


せっかく白石くんが小声で喋っていると言うのに、謙也が大きな声をあげるものだから、部活終わりのテニス部のみんながちらちらと横目でわたし達を見ていた。


…うう、恥ずかしい。
小春ちゃんなんか瞳を輝かせて、わたしの肩口に頭を乗せている。一氏くんが「小春から離れろやー!」とか言ってるけどわたしからくっついてるわけでは…!






「せやけど、ヘタレの謙也がとうとう手ぇ出したか…」
「て、手ぇ出したってなんやねん白石!」
「でも熱出して倒れてはるんがケンヤくんらしいわ〜」
「小春まで…!」




謙也がぎゃあぎゃあと騒ぐのを見つめ、小春ちゃんに後ろから抱きつかれつつ(一氏くんが泣いてる…)、小さく溜息をつく。



……こんな謙也が好きなんだもん。しょうがないよね。



指先でそっと自分の唇に触れて、昼休みの感覚をすこしだけ思い出す。
白石くんの肩に腕をかけて頬を赤くしている謙也と目が合った。







「謙也、だいすきだよ」
「っ…お、俺も!名前のこと、好き、やで!!」





途切れ途切れながらも必死に言う謙也がおかしくて、自然と口元が綻んだ。
耳にイヤホンを差しながらぽんぽんとボールを弄っていた財前くんが、目に見えてわかるほど不機嫌そうに眉を寄せる。






「謙也さんうっさいわ。ここ部室なんすけど」
「!!!」
「……やっぱヘタレや」




財前くんが部室と告げた瞬間、周りを見渡したかと思うと、すごい速度で逃げていく謙也。開けっ放しのドアを見てみんな呆然としてるけれど、わたしはにやけてしまった。




「なんや名前、えらい嬉しそうやなぁ」





白石くんが困ったように苦笑しながら、わたしを見つめて問いかける。そんなに嬉しそう、かな?
「あらほんまや」なんて小春ちゃんにも顔を覗き込まれて、えへへ、とはにかむ。




「どんな謙也でも、すきだなって思って」





簡単に手を繋げなくて、一緒に帰ると早足で、恥ずかしくなるとすぐ逃げるようなひと。
でも謙也なら、そんなとこがむしろ愛しいって思えるんだ。



小春ちゃんの腕からするりと抜けて、わたしの鞄と謙也の鞄を持つ。
白石くんははぁー、と長く溜息をつくと、緩んだ口元のまま首を傾げた。






「…ヘタレでも?」
「うん!」





その問いに笑顔で思いきり頷いて、部室のドアを開ける。
逃げ出した謙也を、迎えにいかなくちゃ。