思いあまって勢いよく








「(す、すき、とか)」




かしゃ、とフェンスに押し付けられて、思わず俯く。
背中にそえられた手は、ひどく熱い。もう片方の手が頬から顎をなぞって、首筋を撫でるように動いた。
その感覚に耐えられず、ずるずると腰が落ちてくる。ぺたりと地面に座り込むわたしを、謙也の腕が軽々と支えた。





「なぁ、名前はどうなん」
「…なにが?」
「俺は好きって言ったんやけど」




そう言うと謙也は試すような目線でわたしの顔を覗き込んだ。嫌でも目線が合う状態にさせられて、心臓が痛いくらいに高鳴る。

普段行動しないくせに、何でこんな…!


もっと何かしてほしいと思っていた自分に、少し後悔する。普段がヘタレなぶん何かされたら、些細なことでもそれ以上にどきどきしてしまうみたいだ。なんだか、すごく悔しい。





「謙也が、すき」
「どのくらい?」
「…えっと……」




しっかりと目線を合わせて呟いたものの、すぐに問い返されて口を噤む。
好きって言っても照れないし怯まないし…もしかして、謙也の中に白石くんでも入ってるんじゃ…。



泣きそうなくらい恥ずかしい状況のなか、謙也はわたしの頬に手を当てている。その口元は得意げに緩んでいた。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いているけれど、謙也はわたしの目の前から離れようとはしない。


…こうなったら。











「っ…このくらい!」




瞼を強く閉じ、謙也の首元に腕を回してぎゅっと強く抱き締める。心臓がどきどきして、張り裂けそうだ。苦しいくらいに力をこめてから、詰めていた息をゆっくりと吐きだす。


ちょうど胸のあたりで、謙也の心臓がとくとくと脈打つのがわかった。最初はわたしと同じようなリズムを刻んでいたけれど、すぐに落ち着いていく。
…えええ?普通だったら真っ赤になって離れるところ、なんだけど。


驚きを隠せずにそのまま離れると、謙也は俯いていた顔を上げて、ニッと笑った。





「俺の方が好きみたいやな」


「え、」







後頭部をぐい、と力強く引き寄せる謙也の手。バランスを崩したかと思えば、唇に柔らかな感触。
見開いた瞳から見えるのは謙也の閉じた睫毛だけ。

ふわりと石鹸の匂いがして、きつく抱き寄せられる。





…謙也がわたしにキス、した。








「…名前」
「っん…!息、くるし…っ」



食むように唇を何度も重ねられ、羞恥やら何やらで酸欠になってしまいそうになる。鼻から抜けたような声を漏らしてしまうのが恥ずかしくて胸を叩くと、謙也は静かに唇を離した。






「な、俺の方が好きやろ!」





耳元で囁かれた声に、自分の唇を両手で押さえながら何度も頷く。
乱れた鼓動の音。楽しげに薄く笑む謙也。


くらくらして、しにそう。







「これから、覚悟…しと…、き」
「…謙也?」

「……あかん…色々考えすぎて……知恵熱…、」



言葉が途切れ途切れになるのに首を傾げていれば、ゆっくりと覆い被さってくる謙也。そのまま、肩口に謙也の頭が乗っかり、後頭部に回っていた手はずるずると落ちた。

慌ててその頬に触れれば妙に熱く、フェンスに寄り掛かって謙也の顔をよく見てみる。


……真っ赤。





「最後の最後で…!!」




謙也はやっぱり、ヘタレみたいだ。





 




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