夜通しお喋り 「アイス食いたい」 「……今更言われても…」 がさ、と音をたててビニール袋をテーブルに置き、ため息をつく。 わざわざコンビニにお菓子を買いに行くのだって嫌だったのに。 眉を顰めて見据えれば、ブン太はそんな様子を一切気にせず、けろりとした顔で首を傾げた。 「俺レモンのやつ。名前は?」 「だから、もう行かないって」 「…ケチ」 ……このビニール袋の中にあるお菓子は、ぜんぶブン太に頼まれたものなんだけど。 ケチなひとはこんなことしないよ、と言い捨てて袋の中のガムを放り投げる。 ブン太はあぶね!と叫んでそれを掴み、じとりとわたしを睨んだ。 それを受け流しながらクーラーの真下に行き、涼しさに目を細める。 外はむしむしとした気温で、しかも生温い風が吹いていたから、暑くてしょうがなかった。 汗が冷えていく感覚は心地好い。 「お!これ新しい味?」 「うん。仁王くんのオススメらしいよ」 パッションフルーツ味のジュースを眺めながら、へえ、とブン太が呟いた。 すぐに、ぷしゅと蓋の開く音がする。 「…ん、んんー……これマズいんだけど」 「あれ?おかしいなぁ…」 「仁王の言うこと鵜呑みにすんなよ。アイツ嘘吐くから」 「えーでも、優しいじゃん」 どこかの誰かさんとはちがって。と付け加えて、冷風が当たるあたりに腰をおろす。 テーブルに近寄り、ビニール袋の中から適当にお菓子を見繕っていると、ブン太の視線を感じた。 敢えてそれに反応せず、小袋からマシュマロを取り出して口に含む。苺のジャムが入ったそれは、すこし冷えていて美味しい。 次に食べるマシュマロを唇で挟みながら、クッションを探す。ぺんぎんのやつ……あれ?無いな。 「ふぇー、ふんふぁ」 「あ?」 「へんふぃんの」 「飲み込んでから喋れっつの」 頷き、咀嚼してから飲み込む。「ペンギンのクッションは?」と問いかければ、ベッドを指差された。 立ち上がるのが面倒で、膝立ちのままのそのそと移動する。奥の方に放置されたままのクッションを、めいっぱい手を伸ばして掴む。 ふわふわのくちばしを触ったとのと同時に、ずしりと背中に重いものが乗ってきた。 「ブン太……重い」 「んなわけねーって」 「体重かけないで!潰れる…!」 首を絞めるように腕を回され、じんわりと体温が伝わってくる。 あつい。おもい。くるしい。三重苦だ。 ぐええ、と情けない声を上げていれば、Tシャツの隙間から入り込んでくる手。 その冷たさに思わず肩を揺らすと、後ろでくく、と笑い声が聞こえた。 「ひ…っ待って待って、今日は日頃のグチとか、夜通し、喋るって」 「名前がずっと喘いでれば会話も成立するだろぃ」 「な、何それ…!んっ、や、やだ、ってば、」 「うるせー」 ブン太のキスは、パッションフルーツの味がした。(…あ、ほんとにマズい) ×
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