新しい○○






「ねぇ先輩たち、これなんだと思います?」





嬉しげに笑うそう言って、赤也がわたしたちに見せてきたのは、色とりどりの紙。
いち、にい、さん…全部で4枚あるみたいだ。


なにそれ、と隣にいるブン太が赤也に問いかける。物凄くだるそうな声。まぁ、こんな炎天下のなか練習試合したり走り回ってたらそうなるよなぁ。






「プールの無料招待券、当たったんスよ!」
「え、すごいね」
「でしょ?」





にへら、と微笑んだ赤也の頭をくしゃくしゃと撫でると、照れ臭そうに振り払われた。
可愛がろうとしたのに、ちょっとショック。


ブン太はその招待券を見つめて眉をひそめ、「どうせならケーキバイキングとかの当てろよなー」と言い放つ。たとえ当たったとしても、ブラックリスト扱いの(ものすごい量を食べる)ブン太は門前払いされるに決まってる。





などと考えていれば部室から、制服に着替え終わった仁王くんが出てきて、暑い、と呟いた。クーラーの効いた部室と外では、気温の差が激しい。
Yシャツの襟をぱたぱたと扇ぐ様子が、子供っぽくてすこし可愛かった。






「で、どこのプール?」
「え!仁王先輩聞こえてたんスか?」
「…あんだけ大きな声で話してれば、のう」
「へへ。えーっと……この前ウォータースライダーができたらしいっス」
「んじゃオープンしたばっかのとこじゃね?」





クレープ屋の近くの、とブン太が付け加えて、頭の後ろで腕を組んだ。黄緑色のガムを大きく膨らましているのを見ると、プール、わりと楽しみなんじゃないのかな。
……この三人と一緒にいすぎて、気持ちがわかるようになってきたのがちょっと怖い。










「……名前先輩、あの」
「ん?」
「俺と、仁王先輩と丸井先輩とで、プール行きません?」
「え、わたしはいいけど…真田くんとか誘った方が面白いんじゃない?」
「げっ…!な、なんで副部長と…!!先輩がいいんですって!」





だって面白いじゃん真田くん。「うむ…たまらんプールだ!」とか言われたら爆笑しちゃうかもしれない。
思わず想像してしまったのを誤魔化すように、手で口元を隠した。









ブン太が歩き出して、それを追うように仁王くんもゆっくりと歩く。
で、赤也とわたしが後ろから付いて行く。帰り道はこれが当たり前になっちゃったなぁ。


友達には羨ましいと言われるけど、イケメンに興味がないわたしから言えば、この構図が一番楽なだけだ。とくに恋愛感情は抱いていないし、クラスメイトや後輩の告白を手伝ったりもする。
そのおかげか、女の子特有のドロドロしたものには巻き込まれていない。ラッキーといえばラッキー…なのかな。





「そういえばお前さん、水着は?」
「…え?」
「じゃから、今年の水着」





仁王くんが振り向いて、至極真面目な顔でそう聞いてきた。
……水着って、わたしの?
自分を指差してそう聞き返すと、仁王くんを口元を緩めて小さく頷く。






「……いや…、買ってないけど」
「買えよ」
「な、なにブン太まで…」





間髪いれずに返ってきた言葉にぎょっとして目を丸くした。
そう言えば、今年は水着買ってないな。家にあるのは去年のやつかも。
あ、買いたくなってきた。


赤也が携帯をいじりながら(まだ学校内なのに…)、「俺が選びましょっか」と笑いかけてくる。
……うーん…赤也ってセンスわるそう。
そう思い苦笑いして首を振ると、ちぇ、と唇を尖らせた。





この雰囲気、やっぱり楽だなぁ。
珍しく吹いた涼しい風に頬を緩ませながら、校門を通る。






「じゃ、今から買いに行くか。新しい水着」
「……は?」



「俺はなんか食いてぇ。買ったあと駅前のファミレス寄ろうぜ」
「…いや、ちょっと、」



「名前先輩、どこがいいっスか?」
「あ、えーっと…アーケードの中の……え、えええ?」








前言撤回、この強引さはぜんぜん楽じゃない。






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