もうそろそろ堕ちそうだ



「滝くん、滝くん」
「なーに」


わたしの前の席で、カーディガンの袖を弄る滝くん。今日は外で朝練してたから、手が悴んじゃったのかな。
気だるげに返事をする彼の鼻先を、ぴっと指差して首を傾げる。




「その眼鏡どうしたの?」




問い掛けると、滝くんは「ああ」と納得したように頷いた。

滝くんは、端整な顔に似合う、お洒落な黒縁の眼鏡をかけている。
目が悪いわけでもない彼がかけているのだから、多分伊達なのだろう。





「誕生日に、跡部から貰ったんだ」
「へえ、跡部くんが…」



滝くんの誕生日はこのくらいの時期なんだ。

それにしても、あの跡部くんからのプレゼント…。そう言われると、たしかに高級そうに見える。
テンプル部分にはラインストーンが埋め込まれていて、その隣にブランドのロゴが描かれていた。



「センスがいいんだねー」
「…ね。それで、名前は?」
「ん?なにが?」
「俺へのプレゼント」



滝くんがくるりと向き直って、わたしの机に肘をのせ、頬杖をつく。



「…もしかして、滝くんの誕生日って今日だった?」
「うん。眼鏡は朝練のときに、ね」
「ええ!ごめん、何も用意してなかった…」


知らなかったから、と付け加えると、滝くんは眉を寄せた。

うう、そんな顔されても…。あ!そうだ、鞄の中にお菓子があったはず。
顔を俯かせ身体を折り、机にかけられた鞄の中を覗き込む。









「名前」
「滝くんちょっと待って…あのね、この中にモナカが、」
「これでいいよ」



そう言った滝くんは鞄を漁っていた手を優しく掴んで、わたしの顎を引き寄せる。
びっくりして固まっているわたしの頬に、滝くんの冷たい唇が当たった。



「……、滝くん」
「なーに」


最初の気だるげな声とは違う、からかうような声で滝くんが返す。
それが悔しくて、「誕生日おめでと!」とだけ、言い返した。
彼はそれにも、くすくすと笑っていたけど。





もうそろそろ堕ちそうだ



「それにしても、女の子の鞄にモナカはどうかと思うよ」
「? 滝くん和菓子すきでしょ」
「(…無自覚って罪だよねー)」



(1029 // 滝くんにメガネは至高 誕生日おめでとう!)


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