ホワイトリップ 「(…うん、)」 海をかこう、と思い立って、美術準備室の鍵を開けた。埃っぽい匂いがするこの場所。入るときは人目も少なくて入りやすいし、中もそれなりに広いしで、サボるのには適している。 ただ、今は真っ白のキャンバスに色を塗ることしか考えていない。 水色、青、藍色。適当にブルー系の絵の具を手にとってパレットに出す。 無心で色をつくり、ひたすらに描く。 隙間を埋めるように様々な青を入れることで、深みのあるグラデーションができあがった。 ひときわ太い筆をパレットの白に圧しつけて絵の具を含ませる。 「…上手やねぇ」 「へ、」 耳元で聞こえた低い声に驚いて、持っていた筆を離してしまった。 白の絵の具を含む其れは、制服のスカートにべしゃりと音をたてて落ちる。 「わぁあっ」 布に染みていく様子に焦って筆を持ち上げると、毛先から白色が跳ねて唇と頬にぶつかる。 う、絵の具ついたかも!慌てて拭こうとすれば、大きな手が頬を覆った。 「ほんなごつ悪か…!」 温かい親指の腹が、ぐいぐいとわたしの唇をぬぐう。 その力が痛くて、閉じていた瞳をそっと開けると、声をかけてきた相手が誰なのかわかった。 千歳くんだ。 「濡らさんと取れんね…ここ、水道は無かと?」 そう問われ、黙って首を振る。 千歳くんが唇を触っているせいで上手く喋れないのだ。 瞳だけを動かして辺りを見回しても、水道はない。 汲んできた水のことを告げようかと思ったけれど、絵の具が溶けて汚れてしまっているのに気付いて、口を噤んだ。 「じゃあ、しょうがなかね」 「え、ちょ…千歳くんっ」 いっそ絵の具がついたままでも…と考えていると、千歳くんがわたしの顎を掴む。 そして、視界が暗くなった。 次いで唇に、生温く滑らかな感触がする。 な、なにこれ。まさか、千歳くんの、 「……ん。綺麗になったばい」 そう言って彼はイタズラっぽく笑う。どくどくと鳴る心臓の音が、聞こえていそうだ。 千歳くんってば、わたしのくち、舐めた…!! ホワイトリップ ( そこまでしなくていいのに! ) (1007 // 本当はここから微裏に繋がるんですが、羞恥心が爆発するのでやめました ちなみに白の絵の具はなかなか刺激的な味がするので、真似はしないでくださいね) ×
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